経営
2016年9月30日更新
[特別企画]県系人絡む相続 プロが解決支援|専門家チームが連絡会発足
国内有数の移民県、沖縄。県系人が絡む複雑な相続問題に悩む人も多い。その問題に対応すべく9月に専門家らが「沖縄系移民関連相続問題連絡会」を発足し、相談窓口を開設した。発起人の3人が、座談会で具体的な問題点や解決策を論じた。また、起こりやすい事例をもとに対策を説明した。
司法書士 上原修氏 相続コンサル 亀島淳一氏 税理士 野原雅彦氏
世界のウチナーンチュ大会に合わせ 沖縄系移民関連相続問題連絡会が発足
移民県特有の課題 代替わりで複雑化
世界に羽ばたく県人がいる一方で、県内では海外移民絡みの相続の問題で頭を抱える人もいる。「沖縄系移民関連相続問題連絡会」の発起人である司法書士の上原修氏、相続専門コンサルタントの亀島淳一氏、税理士の野原雅彦氏から県内の現状や連絡会を発足した経緯、今後の展望を聞いた。移民の相続問題専門の相談窓口を開設した経緯は。
亀島淳一氏相続の相談を受ける中で、不動産が動かせないケースがいくつもあった。
理由で多いのが「海外に財産を相続する『相続人』や財産を残して亡くなった『被相続人』がいる」という状況。不動産の名義変更や購入の手続きは、その方々からもサインをもらう必要があるが、難航する。解決できないかと、専門の先生方と共に動き始めた。
もうすぐ「世界のウチナーンチュ大会」がある。この機会に移民が絡む相続問題を掘り起こし、解決の支援をすべく会を発足させた。
上原修氏
戦後の沖縄をけん引してきた方々が、次世代への引き継ぎを考える時期に差し掛かっている。
私は県内で相続の手続きに携わっているが、何十年も会っていない移民関係者がいると、どう動いていいか分からず、放置してしまう傾向がある。
だが解決できる可能性はあるし、相続が起きる前に名義を変更したり売却して清算するなど打つ手はある。
野原雅彦氏
相続税の申告には10カ月という期限がある。相続税の申告はさまざまな特例があるが、遺産分割が確定していないと適用されないものも多い。
10カ月というのは、相続人全員が沖縄にいてもあっという間に過ぎる。相続人が海外にいるなら相続が起きてから動いては遅い可能性もある。事前にすべきことや相談窓口があることを周知したい。
相続人、被相続人に移民関係者がいる場合、どんな問題が起こる恐れがあるか。
上原例えば住宅。「土地は祖父の名義で建物は私。相続人は海外で生活している」場合。祖父が亡くなった後、海外の相続人とどう連絡を取ればいいのか分からず名義変更ができないケースが考えられる。
沖縄では軍用地の問題もある。相続人が確定しないと地料がもらえない。被相続人が元気なうちはもらえたが、亡くなってしまい、相続人が海外にいると手続きが進まず放置されるケースも少なくない。
野原
不動産を活用したいと思ったり、トラブルが起きない限り手続きに動かないケースも多い。だが世代がかわれば、親族の移民の歴史を知る人がいなくなり話が止まってしまう可能性もある。我々の父母、祖父母の世代がその歴史が分かる最後だと思う。今を逃すと次の世代では解決が難しいかもしれない。
亀島
一般の人にとって相続は、ただでさえややこしく、相談先が分からないという声も耳にする。相談に足を運んでも,相談した相手が、海外での案件に不慣れで積極的に動いてくれず諦めるケースもあると思う。問題を放置することが、解決の糸を絡ませている。
相談を受けて解決に至った案件は。
上原ある土地を長年管理していた方から、そこに住宅を造りたいという希望があった。相続人は約20人近くいて、県内にいるのは5人。残りはアルゼンチンにいて、会ったこともない。
そこで、まずはスペイン語で手紙を送った。住宅を建てるために土地の名義を変えたい、ほかの不動産は売却してお金で支払う、金額はこれくらいになる、口座番号も教えてほしい、など。資料もスペイン語に訳して同封した。
すると3、4カ月くらいで全員から返事がきた。アルゼンチンでは(相続人同士の)ネットワークがあったようで、意外とスムーズに片付いた。依頼者も「早く相談に来ればよかった」と話していた。
連絡先が分からなければ、国によっては現地の県人会や移民局に問い合わせたり、日本国籍があれば日本領事館に問い合わせることで手掛かりが見つかる場合もある。
世界のウチナーンチュ大会では連絡会でブースも出すそうだが、どんな展開を期待しているか。
野原相談できる窓口があることを県内外にPRしたい。税理士や司法書士など「士」が付く職業は敷居が高いと思われがちだが、こういう機会だと相談にも来やすいと思う。
大会で親族が海外から来沖しているのであれば、集まってもらって、今後の相続について説明することもできる。一度話しておけば、手紙のやりとりもスムーズになる。
亀島
県内で移民が絡む相続問題を抱えている方が「そういえば、ウチナーンチュ大会で親戚が来る。一緒に窓口に行ってみよう」と、動くきっかけになればと思う。
また、海外の方々ともネットワークをつないでいきたい。県を通して参加国には私たちの活動について通知している。今後の相続の問題解決の一歩になればと期待している。
子や孫の世代に負の遺産を相続しないためにも、今すぐ動いてほしい。
2016年9月8日にロワジールホテル 那覇で3者による座談会を開いた。共通していた言葉は「どうしたらいいか分からない、と諦めて放置されているケースが多い」ということ。連絡会を通して問題の掘り起こしに取り組む旨を確認した。亀島さんは「動かない不動産があることは経済活動にとってもマイナスだ。連絡会の活動を広げて、行政にも積極的にかかわってもらいたい」と言及した。
【参加者プロフィール】
「手紙のやりとりで解決した案件もある。まず専門家に相談を」
司法書士 上原修事務所
上原 修氏
うえはら・おさむ/1968年、国頭村生まれ。司法書士 上原修事務所代表。相続、生前贈与、遺言、成年後見、そのほか不動産や会社の登記に関するさまざまな相談に対応している。「終活セミナー」などさまざまなイベントで相談も行う。
「子や孫に負の遺産を残さないためにも、今すぐ動くべき」
(株)シナジープラス
代表 亀島 淳一氏
かめしま・じゅんいち/1975年、嘉手納町生まれ。金融、建築、開発などの業界を経験した後、2010年、(株)シナジープラスを設立。幸せ相続計画の専門家として本紙で連載するほか、県内外での相談や講演会活動など多方面で活躍中。
「移民の歴史を知る人がいるうちに連絡を取り、つながっておく」
税理士法人エヌズ
代表社員 野原 雅彦氏
のはら・まさひこ/1977年、宜野湾市生まれ。東京の大手税理士法人で実務を学んだあと、父・野原茂男氏の跡を継ぎ、兄の信男氏とともに那覇市久茂地にて税理士法人エヌズ(旧野原税理士事務所)を開業。セミナーなどの実績も多い。
沖縄系移民関連相続問題連絡会 応援します。
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<お問い合わせ>
沖縄系移民関連相続問題連絡会事務局
(株)シナジープラス内
098-963-9266
(平日:午前9時~午後5時)
取材協力/ロワジールホテル 那覇
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1604号・2016年9月30日紙面から掲載