建築
2016年11月5日更新
優しく豊かな祈りの場|ライトの有機的建築に学ぶ[7]
米国の建築家フランク・ロイド・ライト。初めて事務所を構えたオークパークには、彼が設計した「ユニティテンプル」と呼ばれる教会が建っています。豊かな空間ながら、コストの配慮もされたライト建築の代表作の一つです。
ストイックな外観 温かな内装「ユニティテンプル」
優しく豊かな祈りの場
礼拝堂の祭壇。ユニテリアン派の教義で十字架などのシンボルは一切置かれていない/写真
ユニティテンプルが竣工した1908年当時はまだコンクリート造の建物は珍しく、米国内でも話題となりました。
最も経済的な材料として選ばれたコンクリートの重厚な外壁は、街路の騒音を遮断することにも、ひと役買っています。
日光東照宮にも似た
室内に入るとそこにはシンプルでストイックな外観からは想像できない、きめ細かな装飾をまとった豊かな空間がひろがっています。
礼拝に集中できるように1階には窓がなく、上層部にあるステンドグラスと、格子天井のトップライトから自然光が木漏れ日のようにやわらかく差し込んでいます。
建物の巨大さで人を威圧するヨーロッパの権威主義的な教会建築ではない、荘厳でありながら人間的なスケール感を保ち、建物に優しく包み込まれるような祈りの空間をライトは作り上げました。
正方形の礼拝堂と横長の集会室を渡り廊下のような玄関でつないだ平面構成は、日光東照宮の本殿と拝殿の間に部屋を設けた建築様式に良く似ています。
1905年にライトは施主のウィリッツ夫妻の招待で、夫人と共に日本を訪れています。彼にとって初めての海外旅行でした。ライトは日本全国を精力的に見てまわると同時に、たくさんの浮世絵も収集し、それらは彼のデザインの源泉となりました。
2017年 再生お披露目
ユニティテンプルは現在化粧直しの真っ最中で、ライト生誕150年となる2017年にきれいになってお披露目される予定です。
落水荘などと共に世界遺産登録の候補として挙げられているこの建物もまた、時を超えて受け継がれるライト建築のひとつなのです。
大通りに面しているため、視線や騒音に配慮された外観。正面右手の奥に入り口がある/写真
四隅につられた印象的なデザインの照明器具が、アクセントとして空間を引き締めている
[執筆]遠藤現(建築家)
えんどう・げん/1966年、東京生まれ。インテリアセンタースクールを卒業後、木村俊介建築設計事務所で実務経験を積み独立。2002年に遠藤現建築創作所を開設し現在に至る。
『週刊タイムス住宅新聞』ライトの有機的建築に学ぶ<7>
第1609号 2016年11月4日掲載