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2016年8月5日更新

川や岩 建物の一部に|ライトの有機的建築に学ぶ[4]

米国ピッツバーグ郊外の森の中に建てられた落水荘(Fallingwater)は、ライトの代表作。世界で一番有名な住宅と言っても過言ではないでしょう。近代建築の材料を用いながらも自然に溶け込んだ、見事な別荘建築です。

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ライトの傑作 滝の上に建つ「落水荘」


リビングルームの天井は窓に向かって階段状に下がっていき、室内に居る者の目線を自然に外部へと誘う/写真


1930年代は鉄とガラスとコンクリートで出来た無機質な近代建築が隆盛した時代でした。その中でライトは、近代建築と同じ材料を用いながら、自然との調和を唱える有機的建築の手法をいかんなく発揮して、傑作「落水荘」を生み出したのです。

滝の上に家を建てるというライトの斬新な提案に、窓からの滝の眺望を期待していた施主のカウフマンはおおいに驚いたそうです。

しかし暖炉の前の床に、施主が川遊びをした時に座った岩肌をそのまま残すなど、ライトの発想の素晴らしさにやがて意気投合し、他に類を見ない邸宅が完成しました。



緑に囲まれてたたずむ落水荘(1937年)。自然環境と融和する外観は、ライトの有機的建築を体現している/写真


目に緑 耳にせせらぎ

自然石を貼ったコンクリートの床が岩盤のように重なり、そびえ立つ石積みの壁面と組み合わされた外観は、水平と垂直による幾何学的な造形でありながら、周囲の自然環境と見事に調和し、風景の中に溶け込んで見えます。

室内は四隅に配置された太い柱が上階の床を支えることで、壁は構造体から解放され、三方に向かって大きく開かれた窓からは、鮮やかな木々の緑を目にすることができます。リビングの中央には川面まで降りていける階段があって、いつでも水浴びができ、川のせせらぎが聞こえてくるように作られているのは、視覚だけでなく聴覚も含めて大自然を建築の一部とするライトならではの絶妙なアイデアと言えるでしょう。

往時のままに置かれた家具や調度品からは、ライトの創作した空間の中でカウフマン一家が生活を楽しんでいた様子がしのばれます。



暖炉前の床には、もともとそこにあった岩盤がそのまま生かされ、建物を支えるための基礎にもなっている/写真
 

70歳で第一線に返り咲き

落水荘が竣工した年、ライトは70歳。建築家としての全盛期は過ぎたと誰もが思っていましたが、この建物が雑誌に発表されると、瞬く間に世界中から称賛の声が湧き起こりました。ライトは再び第一線に返り咲き、その後も新しい建築を次々と手掛けていくことになるのです。
 

[執筆]遠藤現(建築家)
えんどう・げん/1966年、東京生まれ。インテリアセンタースクールを卒業後、木村俊介建築設計事務所で実務経験を積み独立。2002年に遠藤現建築創作所を開設し現在に至る。

 
『週刊タイムス住宅新聞』ライトの有機的建築に学ぶ<4>
第1596号 2016年8月5日掲載

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