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2017年6月30日更新

【建築士の日】設計の匠「理想の家への具現化」

施主の頭の中にある理想の家。建築士は、さまざまな手法でそれを形にし、施主や施工業者と共有。その上で建物を造る。4人の建築士に具現化する手法を聞いた。

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具現化case1

畠山武史さん(クレールアーキラボ)


あらゆる角度で検討

カッターナイフでスチレンボードを切り、組み立てていく模型。平面図や立面図を基に作り、勾配の微妙な角度なども忠実に再現する。
「図面だけでは分かりにくい部分も、立体にすれば分かりやすい。あらゆる角度から見て検討できるのが特長」と話すのは、一級建築士の畠山武史さん(42)。建築系の学校でも最初に学ぶほど、模型は図面の理解に適しているという。
外観や部屋の配置はもちろん、さまざまな視点で見ることができるので外からの視線もイメージしやすい。建設地に持っていけば、実際に光が入る向きの確認も可能だ。
さらに詳細が決まってきたら、縮尺の大きな模型で、細かい造りや家具のレイアウトを検討。周りの建物を配置したり、木製の窓枠には木目調の紙を使うなど、より分かりやすく工夫もする。


縮尺の大きな模型で室内のレイアウトを検討する


一般住宅の模型であれば2~3日で完成するため、打ち合わせに応じていくつも作ることがある。
また、作りながら構造や仕様も確認。「模型で作りにくいものは、実際にも難しい工事になることが多く、施工時に注意すべき点が分かる」。電柱を立てる位置など、施工業者との打ち合わせでも役立っている。
工事が終わると、模型は施主に渡す。「みんな喜んでくれる。最初のプランから最終的に決まったものまで、四つぐらい飾っている家もある」。施主にとって、家づくりの記念品にもなるようだ。



模型


平面図や立面図を忠実に再現した模型。外観や外からの視線など、さまざまな角度で確認できる


実際に完成した建物。同じ図面を使っていることもあるが、模型の正確さがよく分かる

編集・取材/出嶋佳祐




具現化case2

儀間徹さん(間+impression)


色・線で強弱 アナログの妙

手描きのスケッチに始まり、スケッチに終わる。一級建築士、儀間徹さん(48)の仕事の流儀だ。
施主と最初の打ち合わせを終えたら、まずは平面図のスケッチに取り掛かる。「パソコンとにらめっこするより、断然はかどる」と、お気に入りの水性ペンを軽快に動かす。「何より、描くのが楽しいんですよ」
何枚も下書きをしながら、施主の要望を「図面に、そして自分の中にも落とし込んでいく」。だいたい2時間ほどで描き上げるという。


儀間さんが描いた平面スケッチ。カラフルで見ていて楽しい。「描くのも楽しいですよ」と笑う


このスケッチをもとに、打ち合わせを重ねる。大事な伝達ツールのため、分かりやすさにこだわる。あえて壁の線は強く描く。そして、キッチンやトイレなどの設備は青、ソファやベッドなどの家具は緑にするなど色でもメリハリを付ける。
スケッチに修正や要望を描き込みながら、ブラッシュアップしていったら、CADで本格的な図面を作成。それを基に模型を作った後にも、再びスケッチを描く。
「リビングなど家のメーンとなる場所は、スケッチに起こして建具のボリュームなどを再確認する」。図面とは違い、色や建材の質感も描かれているため、空間の雰囲気まで伝わってくる。
「僕はアナログとデジタル、両方を知っているラッキーな世代。図面を手描きしていた先輩方を見て育ったことが今、強みになっている」と語った。   



スケッチ


ある家のリビングのスケッチ。TVボードのボリューム、床や壁、天井の雰囲気を描いた。儀間さんは「スケッチには、施工業者に完成形を伝える役割もある」と話す


上のスケッチを基に完成したリビング。スケッチそのままの雰囲気

編集・取材/東江菜穂




具現化case3

佐久原好光さん(アーキデザインワークス)


質感までリアルに

内装材に使った石やタイルの質感からガラスの透け具合、照明の当たり具合まで、細かく書き込まれた画面は完成写真と見分けがつかないほど。「図面の内容を空間としてリアルに視覚化し、施主に理解してもらいやすく」と一級建築士の佐久原好光さん(51)が3年前から使っているのが、精巧な3次元モデルを製作できるBIMソフトだ。

施主との打ち合わせの際は、空間を見る角度をさまざまに変えながら検討。「例えば隣に建つアパートからわが家を見下ろされた時、室内はどこまで見えるかが一目瞭然。目隠し壁の高さや幅を決めるのもスムーズです」。市販の体感レンズ=下写真=を使えば、室内を実際に歩いているかのように見ることも可能。敷地の緯度・経度を入力すると季節や時間帯による日の差し込み具合まで表現でき「イメージにズレが出にくい」のが最大の利点だ。「見る専用の無料アプリを活用すれば、データを持ち帰って自宅でも検討できる」と喜ばれている。


図面と連動しているのもBIMの特徴。奥行きのある建物でも、好きな位置で断面が見られ、そのまま図面に落とし込むこともできるため、作業がスムーズ

納得のいく住まいづくりを実現するためには、「分かりやすさ」が第一。図面からだと空間が想像しづらいこともあり、以前は作業を進める中で修正点が出ることが多かった。「BIMなら空間を具体的にイメージでき、施主も早い段階から細かいところまで要望が出しやすくなるよう。プランも固めやすい」と話した。


BIM


BIMのCGと完成写真。インテリアの質感や光の当たり具合まで、ほぼイメージ通り


完成写真​
体感レンズ「VRビュアー」。スマホと連動させることで実際に室内を歩いているかのように空間イメージが体感できる


 


 

具現化case4

井出真太郎さん(株式会社 紀建設)


サイズ・使い勝手体感

紀建設が、施主とのイメージ共有に使うのは図面や「BIM」などさまざまあるが、中でも特徴的なのがショールームを兼ねた自社ビル3階フロアだ。同社設計室スタジオビスポークチーフデザイナーの井出真太郎さん(37)は「フロア全体が2LDKの住まいを想定した造りになっているため、リビングやキッチン、子ども部屋に水回りまで、現物をみながらイメージを膨らませてもらっている」と説明する。


打ち合わせ室の一角には、サイズが違う造り付けの収納を設置。扉の幅や高さで変わる使い勝手や収納量を確認できる

例えば造り付けの家具一つとっても、扉の幅で使い勝手が違う。「50センチ幅だと収納量は増えるが、開閉時に一歩下がる動作が増え、後ろにスペースも必要になる。40センチ幅だと開閉はスムーズだが収納量が少なめ。使い勝手を実際に体感してもらいながら、寸法をミリ単位で設定していく」といった具合。特にキッチン回りは人によって使い方のクセが分かれるところだが、「シミュレーションしながらだと比較検討がしやすく、要望も出やすい」とも。同社は設計から施工まで一貫して手掛けており、施工の仕上がり具合や取り扱う水栓金具なども実物を見ながら確認できる。

「設計前の雑談」も大切な時間。その段階から価値観や思い描く暮らしを共有し、プランに反映させていく。「正解はない。僕らの経験とその施主だからこそのカタチを導き出すコラボレーション」に心を砕く。


ショールーム


3階の打ち合わせ室(上)。同フロアは、中央に吹き抜けのコート(左)がある2LDKの住まいが体感できる造りになっている


コートを挟んで打ち合わせ室の反対側の部屋はLDKをイメージ。家具や照明、キッチンは実際に取り扱っているものばかり。奥にはライトコートを備えたバスルームもある

編集・取材/徳正美


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1643号・2017年6月30日紙面から掲載(
2017年7月1日は建築士法施行日にちなみ「建築士の日」)

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