沖縄建築賞
2016年6月10日更新
第2回沖縄建築賞|審査講評
6月3日に入賞作品の表彰式が行われた「第2回沖縄建築賞」。通風や眺望を取り込み室内外一体となる空間構成や自然と調和した造り、コンクリート住宅の新たな可能性を打ち出した計画など、多様な視点から生まれる沖縄の気候風土に根差した提案に、評価が集まった。入賞作品7点について審査委員の講評を紹介する。
風、光、眺め 豊かに溶け込む
正 賞 新人賞
一般建築部門 Subaco 名護城公園ビジターセンター【名護市】蒲地史子(33)
構造体に工夫 緑と調和
名護湾が望める高台にある築27年を超える展望台の全面改修である。この建物は全体が黒を基調に仕上げられ、斜面に浮くような配置になっていて周囲に違和感を与えない。
鉄筋コンクリートの床をカットして自荷重を減らし、注意深く構造体の合理を守る工夫をしながら、それらをガラスと木板でくるむように軽快な外観を作り上げている。ガラス面には木々や影を映りこませ、周囲の木陰と一体化させたいという意図も成功している。
「名護湾の美しい夕日を見せたい」という要望に応えるために問題となる西日対策として、複層ガラスや可動ルーバーをうまく用いて解決している。ルーバー天井と壁面の縦格子は、室内に落ち着きと繊細さを与えている。
外壁に使用したのは焼き杉とはいえ、木の外部仕上げの耐久性は心配を伴うものだが、設計者の「時と共に変化していくことが自然との調和である」という主張は共感できる。
自然通風の取り入れや庇による日照調整、クールチューブ等、自然エネルギーの取り入れにも工夫がみられる。
「Subaco」という建物の愛称も、この建築を言い表していて楽しい。
正 賞
住宅建築部門 Hrf house【嘉手納町】仲間郁代(44)
立地生かし伸びやかに
この作品は、南側に前面道路、北側に緑を望む眺望のよい立地にあるが、この敷地の中に、各部屋をコンクリートの箱でいかに構成するかがポイントとなる。
単純な四角の箱のような形態はどこにもありそうではあるが、設計者はそこに沖縄ならではの箱の組み立て方を試みている。それは、亜熱帯の気候条件からくる深い庇とベランダ、伸びのある室内空間、通風と採光のための光庭。これらを敷地形状の中に巧みに取り込むことで、沖縄にふさわしい独自の住宅設計の世界を開拓した。
さらに、敷地の微妙な高低差を変化に富む動線のシークエンス(連続)に利用し、訪れる人の期待感によく応えている。この動線空間には、施主と選び集めた多様な素材を用いている。それらの持ち味を生かしつつ、単なるコンクリートの箱でない味わいのあるインテリアとしている。室内のみならず、そこに連続する半戸外のベランダや光庭のコージー(居心地のよい)な雰囲気は、何にも増してこの住宅の魅力を印象付けている。
タイムス住宅新聞社賞
住宅建築部門 ONE - BOX HOUSE【宜野湾市】島田潤(63)
コンクリートで木包む
古くから“ターウム(田芋)”の産地で知られた宜野湾市大山。なだらかな傾斜地に鉄筋コンクリート造りの民家が建ち並ぶ沖縄特有の集落の中で、南北の大きな開口部に対し、東西の打ち放しのコンクリート壁がモダンと堅固さを印象付け、閑静な住宅街で異彩を放つ。
しかし、いったん室内に足を踏み入れるとフローリングから壁、柱、梁まで木材がふんだんに使われ、柔らかで温かみのある木造建築の世界に入る。つまり「木造の住まいを筒状のコンクリートのボックスで包んだ」(設計者)というハイブリッド住宅である。
リビングルームは吹き抜けとなり、木製の内階段から上がる2階部分は、リビングを見下ろす回廊となって大きな空間を形作る。ここでも「上階と下階が解放された一体の空間」が意図され、作品のテーマである『ワン・ボックス・ハウス』が表現されている。
さらに南北の開口部には、伝統的なアマハジ(雨端)も配し、“沖縄らしさ”も忘れていない。
奨励賞
一般建築部門(2点)
タイムスビル【那覇市】安谷健(51)
アマハジで開放空間
那覇市のシンボルロード・御成橋通りに位置するタイムスビルは、海側から市街地への玄関口として、ニッセイビルと対を成すようにメインゲート(門構え)を形成するよう強く意識した計画となっている。
設計者に期待したのは、本土大手設計事務所によるオフィスビルが林立する久茂地交差点において、地元設計者が選考基準にある“沖縄らしさ”を、施設機能上困難な中でどう表現したかということ。
地上レベルでは、公開空地として大きなアマハジ空間を設け、都市に対し有効な開放空間を提供、外装ルーバーによる熱負荷低減への取り組みは評価できる。また、舞台付きホール、ビルトイン立駐、ギャラリーなどを納めた技術力の高さや、機能性に優れていることも評価に値する。しかし、ファサード(建物の正面)のアンバランスさや陰影表現の新たな試みはなかったかなどの指摘がマイナス要因となった。
ゆいクリニック【沖縄市】佐久川一(68)
自然息づき家のよう
清流を好む「カジカカエル」が鳴いているのに、まず驚かされた。中庭に展開する人工池を見ると、田芋を筆頭に数種の水草が繁茂していて、その間をオタマジャクシが泳ぎ回っていた。これをのぞく子どもたちは、さぞ喜ぶだろう。せせらぎの音はお母さんのおなかに居る赤ちゃんにも聞こえるかもしれない。
風水筒を志向したと言う思い切りのよい吹き抜けのあり方は、なるほど、風、光、水の気が巡り心地よい。上階の回廊は、その効果を期待できると思った。
およそ病院らしくない診療所ではあるが、病院のあり方を提案する姿勢は好感が持てた。受付もそうだが、待合室などは住宅の居間のようで、妊婦の緊張も和らぎそうだ。間取りの多様性も連続してつながる楽しさがあり、さまざまな素材を取り込み、もっと豊かにしたい気持ちも伝わってきた。施主も含めて、そのあくなき挑戦を称賛したい。
奨励賞
住宅建築部門(2点)
現代的な雨端をもつ家【宜野湾市】 大嶺亮(52)
木製スクリーンで快適
日差しの強い東西面を木製スクリーンで包んだダブルスキン(中間空間の換気による熱負荷の軽減や、室内窓際の環境改善を目的とした外壁面の二重構造)の住居である。
平面構成は1階に居間を中心としたパブリックスペース、2階にプライベートスペース+猫部屋が配置されている。単純明快でコンパクトに計画され、各階の居室とも木製スクリーンの面に開口部を設け、通風も考慮されている。
また、スクリーン内側の2階テラスを一部吹き抜けにして、上下階の気配を感じさせる工夫があり、中庭と駐車場の壁も木製スクリーンで構成し、軽快さを感じることができる。
少し欲を言えば、スクリーンを開閉式にし、中庭と駐車場が連続利用できれば、さらに広がりを持った住宅になったと思う。
小規模世帯の住まい【那覇市】久高多美子(61)
木造屋根が生む豊かさ
居間・食堂兼用テーブルとキッチンに寝室、和室だけの小住宅だが、中に入るとその言葉以上の巧みな空間の広がりを感じる。
LDKの屋根部分だけに掛けられた、混構造となる木造の小屋組み。そのディテールが生み出した高さの広がりやリズミカルな垂木の表現、決して広くないLDKの横幅に対する小屋組みまでの高さが、豊かな空間を生み出している。
木造小屋組みのかけ方、和室のディテール等々、設計者がこれまで培ってきた美しいディテールが凝縮された心地よい空間を持つ小住宅である。
審査委員
委員長・古市徹雄(建築家)/小倉暢之(琉球大学工学部環境建設工学科教授)/名嘉睦稔(版画家)/仲元典允(県建築士事務所協会会長)/西里幸二(県建築士会会長)/當間卓(日本建築家協会沖縄支部支部長)/比嘉弘(タイムス住宅新聞社代表取締役社長)※役職は5月17日現在
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1588号・2016年6月10日紙面から掲載