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2024年6月28日更新

[7月1日・建築士の日]家族で建築士|上原 一太さん・上原 ゆかりさん(向作舎一級建築士事務所)

建築士法が施行された7月1日の「建築士の日」を前に、親子・兄弟・夫婦で建築士資格を持ち、同じ事務所で働く3組を紹介する。家族であり、共同経営者であり、建築士の同志である。会社での役割分担や互いへの思い、それぞれの建築観などを聞いた。

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夫妻で建築士



向作舎一級建築士事務所
上原 一太さん=写真右  上原 ゆかりさん=写真左


夫:うえはら・かずた/1986年、南風原町生まれ。1級建築士、1級建築施工管理技士。2009年京都造形芸術大学・環境デザイン学科卒業、12年琉球大学大学院修了。京都で大工と施工管理の経験を積み、夫婦で帰沖。18年に向作舎を設立

妻:うえはら・ゆかり/1986年、京都府生まれ。2級建築士。2009年京都造形芸術大学(現、京都芸術大学)・環境デザイン学科卒業、14年同大学通信制大学院修了。18年まで横内敏人建築設計事務所に勤めた後、糸満市の向作舎で建築士として活躍
 


妻が設計し 夫が建てる家造り

チャンスは準備している人のみに訪れるのだろう、と取材して強く感じた。

「沖縄に仕事があったわけではない。でも、実直に設計する妻の姿を見て、その図面をカタチにしたい。そうすれば自分たちの道も開けると思い、独立した」。こう話すのは向作舎の上原一太さん(38)だ。建築士の資格を持ちながらも、施工を担当する。設計を手がけるゆかりさん(37)は「京都以外でも暮らしてみたいと移住を提案したけど、まさか夫の地元で事務所を構えることになるとは」と笑う。

大学院を修了後、京都で一太さんは数寄屋大工と施工管理、ゆかりさんは設計事務所で木造住宅の設計を中心に実務経験を積んだ。独立後は知り合いの事務所の補助として働く傍ら、木の家具・建具の製作、リノベーションなど、できることを着実に積み重ねた。

 
向作舎初の新築木造住宅は完成に向け工事が進む。黒色の外観は杉を炭化させ、耐久性などを高めている

タモの無垢(むく)材を使い、名護市内にあるハンバーガー店のカウンターや店内家具も製作した



初の木造住宅 依頼は突然

夫妻の共通意識としてあったのは「沖縄でも木造住宅を手がけること」。湿気やシロアリ、雨風と本州とは大きく違う気候でも、「昔も今も沖縄の気候に適した木造住宅を手がける人はいる。だから、自分たちにもできるはず」と夫妻。経験豊富な職人や建築士から学んだり、木を加工し肌で特徴を確認したりして知識を蓄えた。

そして独立4年目の2021年、年末。向作舎初となる新築一戸建て、しかも木造住宅の依頼がインスタグラム経由で舞い込んできた。しかし夫妻は「この依頼は決して自分たちの実力ではない」と互いに言い聞かせた。 「あまりにも突然でクリスマスプレゼントかなって思わず。でも、施主さんの思いも力になり、図面を書く手を止めずにプランを考え続けられた」とゆかりさん。一太さんも「ここで踏ん張らないと道は閉ざされてしまうと感じ、妻にも『やるしかない』と喝を入れた」と振り返る。



一太さんが設計・造作したショーケース。那覇市内のパン屋で使われている​


一歩ずつ思いをカタチに

大工と建築士。立場は違えど、施主の理想を実現したい気持ちは同じ。だから意見の衝突は度々起こる。一太さんは「メンテナンス性なども含めて意見は素直に伝えるし、大工で培った工法や木材の知識も妻と共有することで、気候や敷地の理にかなった建築を造っていける」と力を込める。ゆかりさんは「実際にどうやって造られるのかも想像しながらプランを考えられるように。設計意図を説明する際、より具体的に伝えられるようになった」と話す。

妻が設計し夫が建てる。一つの建物を隅々まで理解し、問題に直面したら意見をぶつける。一歩ずつ着実に施主の理想をカタチにする夫妻の活動は続く。


 
影響を受けた建築物&建築士
向作舎一級建築士事務所

今帰仁村にある宿「石蕗」。一太さんは大工として工事に参加した

上原 一太さん

大工を目指すきっかけになった建築意思(南城市)の建築士・山口博之さんと棟梁・山城正士さん。建築士を志した大学院生時代はどこか「いい評価を得る」ために設計していた自分がいたけど、建築意思の活動からは「純粋にモノを創る悦び」が伝わってきました。そのときに現場で手を動かすほうが自分に向いていると思い、夢を建築士から大工になると方向転換しました。  独立後も設計や施工に夫婦で携わらせてもらい、建築意思が手がけた「石蕗」などをはじめ、2人の技術と建築に対する姿勢を近くで見られたことが向作舎の活動のベースにあります。


上原 ゆかりさん

建築意思とともに、大学・大学院の恩師である横内敏人先生の存在が大きいです。大学卒業後は他業種に就職したけど、好きな設計をやっぱり仕事にしたいと思い、先生に相談。「一度離れてから挑戦するには厳しい業界」と言われたものの、「大学院で学び直してはどうか」と声をかけていただき、先生のもとで大学院2年、設計事務所4年、設計力を鍛えてもらいました。



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取材/市森知
『週刊タイムス住宅新聞』建築士の日特集
第2008号 2024年06月28日掲載

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