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沖縄建築賞

2023年9月29日更新

【第9回沖縄建築賞】奨励賞 住宅建築部門/「具志の二世帯住宅」 (那覇市) 、一般建築部門 「金城次郎館」 (南城市)・「中城ひらやすこども園」 (中城村)

沖縄県内の優秀な建築物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」。ここでは奨励賞3作品を紹介する。

木製の縦ルーバーが印象的な外観。3階には両親の書斎があり、「各階で異なる個性がある」と審査員

木製の縦ルーバーが印象的な外観。3階には両親の書斎があり、「各階で異なる個性がある」と審査員



奨励賞 住宅建築部門
「具志の二世帯住宅」(那覇市)


木製ルーバーで快適さと広がり

間仕切りで柔軟に

約50坪の敷地にたつ「具志の二世帯住宅」は、1階に親世帯、2階に子世帯が暮らす。西側を覆う木製ルーバーについて、設計した仲本昌司氏は「西日や外からの視線を和らげるほか、周囲への圧迫感を軽減したり、美しい陰影も生む」と説明する。

1階は、アプローチから玄関土間、リビングまでが一体化する造り。ルーバーで目隠しされるため、半屋外的な空間を目いっぱい使える。

2階はリビングの吹き抜けと、東側に広がる景色で開放的。リビングは、和室や寝室までつながっているが、可動式間仕切りによって柔軟に分割することもできる。

審査では「コンパクトな敷地に3台分の駐車場など、必要な空間を確保する工夫が詰め込まれている。距離感もほどよく、今後の二世帯の参考になる」との評価を得た。

1階玄関。右側のアプローチから左側のリビングまで一体化させて使える

1階玄関。右側のアプローチから左側のリビングまで一体化させて使える

 

2階リビング。正面奥に向かって和室と寝室があるが、間仕切りで柔軟に仕切れる

2階リビング。正面奥に向かって和室と寝室があるが、間仕切りで柔軟に仕切れる



設計者/設計者/仲本昌司氏(44)(株)ADeR

生活様式などが異なる二世帯でしたが、ルーバーによって一つの建物としてまとめることができました。受賞を励みに、沖縄での設計の可能性を追求していきたいと思います。




審査講評・小倉暢之氏(琉球大学名誉教授)

距離感作る玄関周り

二世帯住宅の設計では、各世帯の充実度と共に、世帯間の距離感をどう作り上げるかが大きな課題となる。この住宅は限られた敷地に3階建てRC造壁式でこの課題に見事に答えている。

よくある二世帯住宅は、1階が駐車場でその上に各世帯が外階段でつながるが、ここは1階の接地性を大切にし、世帯間や社会とのつながりを自然に作る優れた工夫が見られる。すなわち、親世帯の居場所となる1階玄関はルーバーで内外の視線を調節し、大型引き違いガラス戸により雨端空間のような開放性を持たせ、リビング・ダイニングに連続させており、おおらかで緩やかなつながりを誘発する。

一方、2階の子世帯は1階玄関周りで親の気配を感じながらも独立性を確保。複数の可変仕切り壁で将来の生活ステージの変化に備えている。リビングの吹き抜けは、コンパクトでフレキシブルな平面に空間の中心性と開放感をもたらしている。

人口密度が高い那覇市の市街地で、多くの条件を克服し完成度の高い住宅を設計した力量は高く評価される。

 


外観。屋根の勾配は山の傾斜に合わせ、建物が周囲の自然になじむようにした

外観。屋根の勾配は山の傾斜に合わせ、建物が周囲の自然になじむようにした



奨励賞 一般建築部門
「金城次郎館」(南城市)


自然に配慮 素材生かす

絶妙な自然光

「金城次郎館」は、人間国宝・金城次郎氏のヤチムン作品を展示するための美術館。

濱元宏氏は「施主さまの強い要望もあり、もともとあった自然を生かす形で設計した」と話す。既存の樹木を使い、石垣の石は現地の地中から出たものを利用。土地の形状を残すため、テラスを浮かせて、基礎の接地面も最小限にしている。

仕上げ材には石、コンクリート、木、鉄、クチャ(瓦)などを使用。「土から生まれたヤチムンを展示する施設なので、自然を感じる素材を使った」

スリット窓から自然光が入る展示室はあえて少し暗めに。照明でスポット的に照らすことにより作品が際立って見える。

審査では「自然に対しての配慮や謙虚な気持ちが表れている。順路の構成、明暗、開放感と閉塞感のコントラストも素晴らしい」と評価された。
 

展示室。展示ケースの中は調湿効果のあるしっくいを使い、湿気対策をしている

展示室。展示ケースの中は調湿効果のあるしっくいを使い、湿気対策をしている

 

テラス。右側に広がる太平洋を一望できるテラス。右側に広がる太平洋を一望できる



設計者/濱元宏氏(60)=左写真、サポート/豊崎孟史氏(37)
濱元宏建築設計事務所+GAB

 
(濱元氏)最小限しか自然に手を加えていない分、施工は大変でしたが、賞をいただけて素直にうれしく、機会を与えてくれた施主さまには本当に感謝いたします。今後も喜ばれる建築をつくっていきたいです。



審査講評・根路銘剛次氏(前回一般建築部門 正賞受賞者)

地形に溶け込む造形

施設までは坂道を蛇行しながら徒歩で登り、建物の入り口までは深い軒下空間を、美しい海を見下ろしながらゆっくりとアプローチしてたどり着く。急傾斜の土地ならではのアプローチで非常に心地よい空間となっていました。

深い軒を造っている赤瓦屋根は土地の急傾斜面とほぼ同じ傾斜。しっくりなじみ佇んでいる建物の姿はその場所の自然や素材、土地への敬意を表しているようでした。片持ちスラブで急傾斜地での基礎工事の簡素化も図れ、宙に浮いたような床と低い軒先のラインが立面の軽快さにつながり、非常に美しいプロポーションを生み出していました。

構造計画の巧妙な手法で光の取り入れ方にも工夫が見られ、内部の展示物と素材感のある内装との調和も心地よく、美術館の空間として完成度も高い。単に外部環境を取り入れることだけが正しいのではなく、厳しい外部環境から守る大切さも改めて感じられました。意義のある作品です。

 
 
外観。写真右側の2階部分にある大きな窓で地域の人々との交流を促す外観。写真右側の2階部分にある大きな窓で地域の人々との交流を促す
 

奨励賞 一般建築部門
「中城ひらやすこども園」(中城村)


地域とつながる保育施設

好奇心育む中庭

コの字形の建物で中庭を囲んだ「中城ひらやすこども園」。設計した平良和礼氏は「これからの保育施設として、魅力的な園舎はもちろん、地域と関わり、子育てをバックアップできる環境づくりも目指した」と話す。

例えば1階中庭は、隠れ家や土管付き築山、ビオトープなど、さまざまな要素で好奇心を育む。

2階図書スペースには外に向けた大きな窓。地域とのつながりを感じられるようになっている。

さらに、建物の一角には、保護者同士で情報交換をしたり、子育てセミナーなども開ける「地域交流カフェ」も設けた。

審査員からは「300人収容できる規模でありながら、中庭がうまく機能し全体にまとまりがある。居場所も多く、園の生活が楽しくなりそう。子ども、職員、親のそれぞれの目線で考えられている」などの声が挙がった。
 

中庭。2階回遊デッキにつなげることで立体的な遊び場となり、多角的な捉え方を養う
中庭。2階回遊デッキにつなげることで立体的な遊び場となり、多角的な捉え方を養う

建物中央にある1階ホール建物中央にある1階ホール


設計者/平良和礼氏(41)(株)渡久山設計

心身の基礎をつくるこども園として、子どもたちが楽しみながら健やかに成長できる環境を園長先生と一緒に考えてきました。それを評価して頂き、共に喜んでいます。

 

審査講評・能勢裕子氏(彫刻家)

発育見据えた仕掛け

この計画は中城村が二つの幼稚園を官民連携して統合スタートした。新しい役場も建ち開発が予定されている中で、このこども園はポテンシャルの高い貢献ができるよう取り組んだ建築。

設計は「魅力的な園舎、地域との関わり、子育てをバックアップできる保育環境」を目指して、三つのコンセプトのもと計画されている。趣旨通りに「わくわくする園舎」づくりが実現されていると言える。

コの字形で2階建ての建築は大きな敷地にいろいろな仕掛けの遊び場を囲み、透明感のある大空間を内包し、園児たちの発育に合わせたしつらえが細部にまで考えられている。また、色づかいもトーンを落としたカラーが選択されており、園舎の質を高めて好印象を与えている。

現地審査では、園舎でかいがいしく働く職員や迎えの親と楽しげに帰る子たちと会った。秀逸・洗練・斬新も必要ではあるが、大切なのは寄り添うココロとカタチなのではなかろうか、と中城ひらやすこども園内を歩きながら教えられた。


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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1969号・2023年9月29日紙面から掲載

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