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沖縄建築賞

2022年10月21日更新

【第8回沖縄建築賞】奨励賞 一般建築部門/「ホテルストレータ那覇」(那覇市) /「あおみどりの木」(那覇市)

沖縄県内の優秀な建築物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」。全34作品(住宅部門14件、一般部門20件)の中から、第8回の入賞作品が決定した。奨励賞一般建築部門には富山晃一氏設計の「ホテルストレータ那覇」と、根路銘安史氏設計の「あおみどりの木」が選ばれた。

エントランスホール。大開口や床材、植栽などで室内外の一体感を演出
エントランスホール。大開口や床材、植栽などで室内外の一体感を演出


奨励賞 一般建築部門
「ホテルストレータ那覇」(那覇市)


自然や歴史 地域性を随所に

都会のオアシス

那覇市の美栄橋駅前に建つ15階建て、221室のシティーリゾートホテル。設計を手掛けた富山晃一さんは「場所が持つ、自然や歴史を施設全体のイメージとして落とし込んだ」と説明する。

エントランスは隣の公園予定地に大きく開き、その緑が室内まで連続するよう計画。沖縄らしい植栽や琉球石灰岩をふんだんに使用して「内外の境界があいまいになったおおらかな空間を目指した」。

1階のエレベーターホールには、ホテルコンセプトの「ストレータ(地層)」を表現した高さ4・5㍍の作品が飾られている。沖縄特有の赤土やクチャを使って、地元の左官技能士が制作した。

規模は大きくないが、造りやインテリアなどで独自性を打ち出しており、審査員からは「敷地を最大限に生かし、他のホテルと差別化を図りながら採算ベースに乗せているのが見事。まさに〝都会のオアシス〟という印象」との声が上がった。
 

エレベーターホールには地層を表現した高さ4.5㍍の左官作品を展示

エレベーターホールには地層を表現した高さ4.5㍍の左官作品を展示

 

外観は4種類の台形ルーバーを組み合わせて首里織のリズムを再現

外観は4種類の台形ルーバーを組み合わせて首里織のリズムを再現



設計者/富山晃一氏(36)UDS㈱

土地の歴史や文化を読み解き、多くの工芸作家と協働して作り上げた施設が賞を頂き、非常に光栄です。設計から運営まで担っている点や、地域価値向上に寄与する可能性も含めて評価頂いた点もありがたいです。




審査講評・武岡光明氏(県建築士事務所協会会長)

場所性や記憶も具現化

モノレール美栄橋駅近くに位置し、広いとはいえない変形地に立つシティーリゾート型宿泊施設である。隣接する公園予定地は、昔ながらの地形と自然を残しており、その景観をうまく取り込んだ配置計画で、都心を感じさせない自然豊かなリゾート感を演出している。

また、エントランスホールから屋外テラス、プールに向けての大開口は、内と外が連続するよう仕上げ材を施して一体感を演出し、心地よい流れを感じられる。敷地の奥にある、古材を利用した赤瓦の別棟レストランは、庇の高さを抑え古民家を想像させる。

また、この土地の地層を表現したカラー構成は外観・室内ともに表現されており全体のイメージカラーとしての役割を十分果たしている。

設計者は沖縄の歴史や伝統に加え、場所性や記憶を具現化し、空間構成や内装、装飾まで地元作家とともに一貫性をもって創り上げているところに新鮮さを感じた。企画から設計・監理、運営まで気を使いながら丁寧に解決し設計を行った跡が見られた。

 


浮島通りにある「あおみどりの木」。外壁は建物が建設された当時のあおみどり色に塗り直している
浮島通りにある「あおみどりの木」。外壁は建物が建設された当時のあおみどり色に塗り直している
 
70年前の同建築物。建設当時は薬局兼住宅として使用されていた



奨励賞 一般建築部門
「あおみどりの木」(那覇市)


場所・地域の記憶を喚起

70年前の姿を再現

「あおみどりの木」は1952年に建設された2階建て木造赤瓦の建物を改修。70年前の姿を復元し、現在はアートギャラリーになっている。

室内の壁は、極力70年前のものを残しつつ、シロアリの被害を受けた柱や梁などの木材には、古材を使用し補強。建物の強度面だけではなく、建物が持つ雰囲気を壊さないようにも配慮している。設計者の根路銘さんは「既存の建物を生かして次世代に受け継いでいくのも建築の大切な役割」と話した。

床の間を持つ2階の和室は、間仕切りをなくして広々とした空間に。また床の間の壁や床は、改修時に学生らと琉球漆喰を塗るなど伝統技術の継承にも貢献。

一方、外壁は建設当時の淡いあおみどり色に。さらに、窓枠や窓の手すりも70年前に使っていたデザインに作り替えた。

審査では「建物を復元したことで70年前の地域や場所の記憶などを呼び起こす。時代を超えて通りの象徴的な建物となり、貴重な存在」と評された。
 

1階ギャラリー。柱や梁には古材を使用1階ギャラリー。柱や梁には古材を使用
 

広々とした和室。写真右側の床の間の床や壁には琉球漆喰が施されている
広々とした和室。写真右側の床の間の床や壁には琉球漆喰が施されている



設計者/根路銘安史氏(58)アトリエ・ネロ

1952年完成の木造赤瓦屋根の建物を改修した『あおみどりの木』。歴史ある建物を使い続けることが今後も評価され、歴史や文化を感じる沖縄の建築や街の景観が作り出されていくことを願う。




審査講評・下地洋平氏(前回一般建築部門正賞受賞者)

建物の活用・保全に道筋

老朽化で建て替えが検討された築70年の木造赤瓦の2階建て建築物を、大規模な修繕工事を施して薬局だった当初の外観に復元し、3代目の現店主がギャラリーとして保全活用した作品。

建物を取り壊すとその記憶は実に儚く消えてしまうが、この作品は逆に記憶を呼び起こし、ギャラリーとして活用することで過去と現在が混じり合う文化の発信拠点となっている。

保全技術では、火災要因になりうる古い電気配線の交換、合板による耐震要素の追加、腐朽した柱への添え木、蟻害を受けた梁材の取り換えなどで防災面の強化と長寿命化を図っている。そのほか、土間コンクリートの金継ぎ、琉球漆喰塗りなどのワークショップなどで伝統技法の継承にも取り組んでいる。

本作品により古い建物の活用・保全技術、伝統技法の認知が高まり、地域歴史文化の醸成、特色ある景観やまちづくりへとつながることなどが選考基準に当てはまるとして高く評価した。



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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1920号・2022年10月21日紙面から掲載

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