特集・企画
2021年6月25日更新
[沖縄・建築士の日 特集⑤]意外な分野で活躍する建築士
7月1日は建築士の日。その職能は建築業界だけでなく、さまざまな職種で生かされている。意外な分野で活躍する建築士を紹介する。※7月1日は建築士法の施行日から「建築士の日」。今号は建築士をテーマに特集を展開します。
1級建築士資格を生かす大学職員
上原 桃子さん
琉球大学 施設運営部
計画整備課
実験棟も寮も造る
講義棟、実験棟、寮…。大学内には特殊な部屋から住む場所まで、さまざまな用途の施設がある。それらの設計、工事監理、修繕をしているのは、大学職員として働く建築士たちだ。琉球大学施設運営部の上原桃子さん(40)は、「私も就職活動で初めて知って驚きました。大学なら、学校や美術館など、興味があった大きな建物の設計に携われる」と、就職のきっかけを話す。鹿児島の国立体育大学での勤務を経て、琉大へ。「いろいろな用途の施設を設計するので、建材や機能性など、多くの知識が必要になり、日々勉強です」。例えば、薬品を扱う実験室では、使いやすさはもちろん、薬品がこぼれても問題がない床材、気密性の確保や湿度管理など、安全性に考慮した造りも求められる。
また、電気系統や機械・空調設備の配管といった見えない部分との調整も不可欠。「特に瀬底島の研究棟新築では、各工事とすり合わせて『あーでもない、こーでもない』と図面を修正。見えない部分も見通す幅広い視野を持ち、細かなところも追求する姿勢を大事にしようと感じています」
改修前の本部棟女子トイレ
一生を見届け携わる
昨年は寮のリフォームも担当。1フロア10室のうち2室を浴室に変え、各部屋にはエアコンを取り付けた=下写真。寮の管理者は「雨風の中、別館にある浴室へ向かう学生たちの姿がふびんで…。リフォームのおかげで快適になったよ」と喜ぶ。上原さんは「こうやって利用者の声がダイレクトに届くのが、この仕事のうれしいところ。いいことばかりではないけれど」と笑う。
利用する教員や学生らの要望全部に応えたいが、「国立大学なので、コストに厳しく、標準を超えた造りも難しいことがある。今回かなえられなかったことは次へ生かし、設計、修繕、古くなっていく姿まで、自分が携わった建物の一生を見届ける。同じ敷地内で働いているのでやりがいも身近に感じられます」とほほ笑んだ。
学生寮のリフォーム後。エアコン設置のために増えた電気配線は、壁をはわせて木枠で覆うことで見栄えとコストの両立を図った
好きな建物&建築家
上原さんに、①好きな建物②好きな建築家を聞いた。①沖縄市安慶田にある「くすぬち平和文化館」。1階の紙芝居劇場は、高さの違う二つの曲線の壁がかみあい、その壁を飾る縦の木ルーバーが丸い吹き抜けの中心に向かって伸びていて、渦の中心を思い起こさせる空間になっています。足を踏み入れた時の、吸い込まれるような、それでいて安心感を感じるような不思議な感覚に陥った体験が忘れられません。建主の思いをかなえるべく、とても丁寧に作られていることが感じられる建築です。
②谷口吉生さん。谷口さんの建築作品を見に行ったことがありますが、記憶に残っているのは、法隆寺宝物館から眺めた桜の美しさや、葛西臨海水族園の水盤につながって見える海の広大さでした。建物主体ではなく建物を取り巻く風景や環境を大切に考え、それを見せる設計手法の巧みさを尊敬しています。
プロフィル
うえはらももこ/1980年、那覇市生まれ。琉球大学環境建設工学科卒業。1級建築士。鹿屋体育大学に就職後、2010年琉大へ異動。附属小中学校給食棟なども担当
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取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1851号・2021年6月25日紙面から掲載