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2021年6月25日更新
[沖縄・建築士の日 特集②]意外な分野で活躍する建築士
7月1日は建築士の日。その職能は建築業界だけでなく、さまざまな職種で生かされている。意外な分野で活躍する建築士を紹介する。※7月1日は建築士法の施行日から「建築士の日」。今号は建築士をテーマに特集を展開します。
保険会社で活躍する1級建築士
上原 康孝さん
大同火災海上保険(株)
損害サービス部
被害調べ保険金の額示す
1級建築士の上原康孝さん(56)は、建築専門の「損害保険鑑定人」として活躍している。これは日本損害保険協会の認定資格で、災害などで建物が被害を受けた時、適正な保険金を迅速に支払えるよう、被災現場を調査するのが主な仕事だ。被害の原因や規模を調べた上で、修理業者から提出された見積金額が適正かどうかも査定する。上原さんは「原因や規模、復旧方法などを判断する時に、建築の知識が役立っている」と話す。また、火災現場では図面が焼失したり、もともとない場合もある。そんな時も建築士のスキルを生かして、残っている柱や梁、建具などの位置を確認し、図面の復元を行う。
「特に忙しいのは台風シーズン」と上原さん。「近年は台風の規模が大きくなっており、被害の範囲も広がっている」。瓦屋根が飛んでいった家や、飛来物により窓ガラスが割れたホテル、浸水した工場など、台風直後は1日10件ほどの調査が約1カ月続くこともある。
それでも「早く日常に戻ってほしい」との思いで仕事に励む。しばらくして建物の前を通った時にきれいに修理されていると、「無事に日常に戻れたようで良かった」とやりがいにつながるという。
上原さんが被災現場を調査するときの必需品。カメラやメジャーのほか、タイルやコンクリートの浮き具合を音で確認する打診棒などもある。くぎなどを踏んでもケガをしないよう長靴は底全体に鉄板が入った安全靴になっている。ヘルメットには停電時でも対応できるようライトが付いている
防災にも意欲
中学生の頃、自宅の新築工事で建物ができていく様子がおもしろくて、「自分でも造りたい」と建築士を目指した。
県外の大学に進学し、卒業後はハウスメーカーで新築やリフォームの図面を作成。沖縄に戻り、建築系の専門学校で講師をしていた時、同僚から損害保険鑑定人に誘われた。
それから約17年。鑑定人として周知したいことも出てきた。「台風後でも、既存のひび割れから雨が染みこんだことによる水漏れなどは保険適用から外れることもある。劣化を防ぐためにも、定期的なメンテナンスが大事」と訴える。
今後は「経験を生かして、防災リスクの低減を考えた家の設計などにも挑戦してみたい」と話した。
直接、被災現場に行くだけでなく、顧客から送信された写真を基に調査や査定をすることもある
好きな建物&建築家
上原さんに、①好きな建物②好きな建築家を聞いた。①国場幸房さん(1939年~2016年)が手掛けた「ホテルムーンビーチ」。開放的な雰囲気がとてもいい。海を囲むV型の建物も、翼を広げたようでかっこいいです。高校時代に初めて訪れた時、「すごい建物だな」と衝撃を受けたことは今でも覚えています。
真喜志好一さん設計の「沖縄キリスト教短期大学」や「シュガーホール」も、コンクリートならではの良さが出ていて好きですね。
②安藤忠雄さん。コンクリートの建物は沖縄でもなじみ深いですが、安藤さんが手掛けたコンクリート打ち放しの建物には無機質な中にも繊細さがある。そんな打ち放しの工法は安藤さんが先駆者だと思います。東京に住んでいた頃は、よく関西まで足を運んで見に行ったりもしていました。
プロフィル
うえはら・やすたか/1964年、那覇市出身。1級建築士。大学卒業後、ハウスメーカー、専門学校講師を経て、損害保険鑑定人として大同火災海上保険(株)と業務契約
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取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1851号・2021年6月25日紙面から掲載
この記事のキュレーター
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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。