特集・企画
2021年6月25日更新
[沖縄・建築士の日 特集①]意外な分野で活躍する建築士
7月1日は建築士の日。その職能は建築業界だけでなく、さまざまな職種で生かされている。意外な分野で活躍する建築士を紹介する。※7月1日は建築士法の施行日から「建築士の日」。今号は建築士をテーマに特集を展開します。
宜野湾警察署の建て替えに伴う仮庁舎の建築現場で配筋検査に立ち会う仲里さん(中央)
沖縄県警で活躍する1級建築士
仲里 浩哉さん
沖縄県警察本部
警務部会計課営繕係長
親しまれる交番 カタチに
仲里浩哉さん(48)は沖縄県警察本部、唯一の1級建築士。地域の交番や駐在所を中心とした警察施設全般の、増改築や建て替え工事に携わる。小規模な増改築など自身で図面を引くこともあるが、建て替え工事の際は発注側の責任者。職員の意見をまとめ、設計事務所にプランを依頼。工事が始まれば工程会議への出席に各種検査の立ち会い、引き渡しまで、全ての確認・承認を行う。例えば「交番が農地以外に使えない農業振興地域にある場合、地元の理解が得られなければ建て替え自体ができないため、まずはそこから調整」。発注後も「使い勝手や法的に問題はないか、価格は適正かも含めて確認。不具合が出れば、現場と一緒になって知恵を絞る」、頼もしきプレイングマネジャー。
採用以来、22年間で建て替えたのは45件。「離島も含めた県内すべてが仕事場」だ。
工程会議では、建物、電気、空調と工事担当全員が納得するまで、納まりなどを細かく確認
考え酌み提案&調整
交番や駐在所というと、どれも似たようなイメージがあるが、「地域によって随分違う」。限られた敷地内で、署員だけでなく地域の子どもや高齢者、車イス利用者らにとっても使いやすい造りや動線を考えたり、市町村によっては景観条例があるためだ。「必要な機能を網羅しつつ、いかに地域の景観担当者の考えを酌み取り、街並みに溶け込むカタチを提案できるか」が腕の見せどころ。実際、龍潭通りに建てた首里交番は、赤瓦屋根や琉球石灰岩の腰壁が印象的なランドマーク的存在となった。
建築事務所に勤めていた際、警察にも建築職の採用枠があると聞き、興味を持ったのが現職に就いたきっかけ。調整役の比重が大きい今の仕事は、「関わる人が多くて考え方も進め方も本当にいろいろ。苦労が多い分、引き出しも増えた」と笑う。それだけに「実際に使われている様を見る喜びはひとしお。地域の治安のシンボルとして住民に親しまれ、使い続けてもらえたら、こんなうれしいことはない」
日に焼けた笑顔に、実直な人柄と、ものづくりにかける思いが垣間見えた。
「奥行きがない変形地で条例に沿った屋根にするため、前面道路に庇を出した」という首里交番(県警提供)
コザ交番は周辺の建物と連続する陸屋根に。花ブロックの塀(写真左手)に市花のハイビスカスで緑化。赤以外の品種を混ぜ見た目も楽しく(県警提供)
好きな建物&建築家
仲里さんに、①好きな建物②好きな建築家を聞いた。①②幕張メッセなどを手掛けた槇文彦さん。海洋博公園初代水族館の設計者で、アーチが連なるアーケード=下写真=がきれいでした。好きな建物も槇さんが設計した国立国語研究所。外装は一見普通のカーテンウオールですが、ガラスに施された細かい模様が日照調整に役立つなど、考え抜かれたディテールに感動しました。
国営沖縄記念公園(海洋博公園)提供
プロフィル
なかざと・ひろや/1973年、豊見城村(現、豊見城市)生まれ。1級建築士。琉球大学大学院工学研究科を卒業。民間の建築事務所を経て99年現職へ。休日は健康維持と情報収集を兼ね街歩き
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取材/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1851号・2021年6月25日紙面から掲載