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2017年5月20日更新

直下型地震① 老朽コンクリート住宅[防災コミュニティ]

大災害発生時、犠牲者の多くは、自力移動が困難な人だ。障がいや高齢など心身の状況だけでなく、住居や周辺道路など生活環境の脆弱さのため、逃げることができない場合もある。1年を通し、「まちと避難」について県内各地域の事例や課題を紹介する。初回は老朽コンクリート住宅の耐震化を考える。

開口部が変形、避難と救助阻む

国道330号・広栄交差点の北東に位置する浦添市広栄地区は、復帰前に原野を宅地造成し、分譲されたコンクリート住宅を中心に400世帯が暮らす。住民によると、建築基準法が改正された1981年以前の建物が半数以上あり、海洋博前後の建築が多く見られる。
比嘉勝昭・広栄自治会長は「コンクリート住宅は2世帯住宅に改築が難しい。子どもが住めず、地域は住民と建物が同時に高齢化した」。共同住宅も、老朽化と共に家賃が下がり、所得の少ない高齢者が多く住むようになる。
ある住民は、「ひさしなどの外部だけでなく室内もコンクリートの剥離が進み、破片が落下する」という。建築ブーム時代の建物は、資材や人手の不足から質の低い建材や技術で建てられていることも。特に沖縄では「海洋博のころに建てられたものは海砂が使われていて劣化が激しい」。広栄地区も該当するという。


使われないブランコと古い壁絵。まちの高齢化を示すのか=浦添市広栄地区

1981年以降は安全? 

阪神淡路大震災での倒壊状況から、本土では1981年以降の建物は安全とされてきた。だが、昨年の熊本地震では震度6以上が連発し、比較的新しい建物も損壊した。最初の震度7のあと無事だった自宅に戻った人のうち、2回目の震度7で13人が亡くなったとされる。2004年の新潟県中越地震でも、震度6以上が連発している。
沖縄は、強い紫外線と潮風でコンクリートの劣化が速い。剥離により雨水がコンクリート内に浸入していたり、「あばら筋」と呼ばれる鉄筋などが露出してさびている状態を古い住宅ではよく見かける。沖縄で「1981年」にこだわっていると、危険だ。

3割強度低い沖縄

「地域別地震係数」の問題もある。建物で必要な強度を関東や関西を1とした場合、沖縄は0.7で最も低い。東京や大阪より3割も強度が低い建物が建っていることになる。震度6以上の地震が全国どこで起きても不思議ではない今、県民は本土より厳しい基準で耐震を考える必要がある。
建物の劣化は、地震で倒壊を免れても、玄関や窓など開口部を変形させる。自宅に閉じ込められると、火災や津波の浸入や救助の遅れによる死傷、避難所に行けず食料や水、情報からの孤立など、さまざまなリスクを伴う。
必要な対策は、2点ある。
ひとつは、避難と救助を考えた耐震補強をすることだ。倒壊や扉の変形に耐える家に。また、沖縄の住宅は格子付きの窓が多く、避難も救助も阻む。地域の実態と昨今の地震災害を考えながら、官民で対策すべきだ。「個人補償は難しい」と放置すると、一度の災害でまちの風景や多くの命が失われ、膨大な経済損失を出すことになる。健康と同じく、災害にも「予防のための投資」は必要だ。
もうひとつ、コンクリート住宅ならではの避難・救助経路の確保だ。次回、取り上げたい。


窓の格子は避難と救助を阻む。内側から外せるものにすべき
 

<最低でも扉の耐震枠工事の助成を>

広栄自治会では、地域の災害課題についての講座と意見交換会を筆者と行った。高齢者住民の1人は「個人の財力では、耐震補強工事はとうてい無理。地域は高齢者ばかり、乏しい年金生活者ばかりで、自力では全く対応できない」と悲痛な声を上げた。最近は耐震施工や防災グッズを売りに来て、高額な契約をふっかける業者が高齢者宅に来るという。工事費として500万円を提示された住民もいる。
行政は、耐震診断と補強について補助制度を設けている。自治体によって制度は異なり、多くは沖縄特有の脆弱さへの考慮はなく、「1981年以前の建物」など本土基準と同様のものが多い。上限金額や自己負担額も、特に耐震補強が必要な高齢者にはとても手が出ない。共同住宅はなおさらだ。
せめて避難と救助経路確保のため、扉の耐震枠や内側から外せる窓の格子(可動式面格子)、2階から脱出するための避難はしご等への補助が必要だ。そもそも、ほとんどの住民は行政による耐震診断や補強の助成制度を知らない。浦添市内のある自治会長は「行政の補助制度を知らずに、自分で天井にスラブを入れて補強した」という。「自助」頼みではなく、まずは耐震補助制度の周知徹底など「公助」だ。


広栄公民館で行った老朽化や避難課題の意見交換会


[文]
稲垣暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。



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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1633号・2017年4月21日紙面から掲載

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