雨の季節がやってきた|アジアを旅する建築家が見た沖縄の暮らし

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お久しぶりです! 2022〜23年に連載していた「ウチナー建築家が見たアジアの暮らし」を覚えている方はいますか? あれからアジアの旅を終えて沖縄に戻り、家族3人+犬1匹と南城市佐敷の津波古でのんびり暮らしています。今回は“ウチナーの暮らし”を題材に、津波古での日々や、新しく始まった建築プロジェクト「森の校舎」のことをつづっていこうと思います。では!(文・写真/本竹功治 建築家)

豊年祭/大地の再生

ヒュッヒュロロロロ~。

空気が潤いはじめた4月。湿り気を帯びた風にのって、アカショウビンの声が聞こえはじめる。ヒュロロロ、と鳴くのが雨で口をゆすいでいるように聞こえるらしく、この時期の雨をウチナーグチで雨乞いの「口洗い雨(フチアライアミ)」と呼ぶ地域もあるそうだ。

昔ながらのネーミング。ChatGPTも顔負けだ。他にも鷹(サシバ)が渡るころの雨を「鷹の小便(タカヌシーバイ)」、冬の寒い日にシトシト長く降る雨は「冷たい雨(ヒーサグルン)」など、沖縄の雨語はおもしろい。

弥勒の嬉し涙

津波古では2月ごろから一斉にサトウキビの収穫がはじまると、畑がパッとひらけて景色が変わる。今の時期から苗を植えはじめるのだが、今年はなかなか雨が降らない。

「季節がズレてきてるなー」ちょうど収穫を終えて、サトウキビの苗を植えたばかりの近所のおじちゃんの口が、アカショウビンみたいに尖ってきた(笑)。

そんな中、豊作への感謝と降雨を願う「豊年祭」のお知らせが届く。公民館にぞろぞろと人が集まりはじめると、舞踊に唄三線、棒術と、伝統芸能がずらり。遅くまで笑い声が響く。弥勒(ミルク)さま、大粒の嬉し涙を流して雨を降らせてくれるかな。今年も楽しみだ。

翌日、ユイマールで一本一本キビを刈るおじちゃん、おばちゃんの3時休憩(ユクイ)の姿に雨は少なくとも心が潤う。季節はズレても、津波古の“共同一致”を求め続ける心は昔(ンカシ)から変わらない。

津波古区の行事にたびたび登場する弥勒さまと筆者と娘。津波古弥勒保存会の皆さんが継承活動を続けている

雨の還る道づくり

雨といえば、冒頭でふれた津波古での新たな建築プロジェクト、「森の校舎」の建設がはじまったのだが、ちょいと雨水に悩んでいる(森の校舎はフリースクール「珊瑚舎スコーレ」の小学校低学年と4、5歳を対象とした新校舎)。

敷地は、津波古内陸側の木々に囲まれたのどかな場所。しかし、森は長く人の手が及ばなくなり薮(やぶ)化していた。風がふさがり、日も当たらず、大地が詰まる。人も血管が詰まると、酸素と栄養の巡りが滞り、不調が顔をだす(筆者も今年42歳、ひとごとではない!)。森もまた同じで、水の道が塞がると木々は弱る。浸透しない雨水が地表を削り、大きな濁流となって森の校舎の敷地に流れてきたときは、おったまげた!

そんなとき、山や森の“環境整備”という仕事をなりわいとする矢野太智さんと出会い、プロジェクトに協力してもらうことに。

本来、雨水は大地を潤す。波打ち際へと還っては人々の喜びの声とともに生まれ、育まれてきた。しかし近ごろのコンクリート舗装された町並みでは、雨水は還る道を失い一カ所に集められ「急げ!」と、命令されるかのよう。道から逸れると河川氾濫、土砂崩れなど“災い”として呼ばれる。この“ズレ”は異常気象だけが原因ではなく、自然に背を向けた“現代を生きる私たち”そのものかもしれない。

矢野さんが来るときまって雨が降る。「降っちゃいましたねー」と本人は楽しそう(笑)。

一緒に森へ入ると、彼は足踏みしたり枝を曲げたり「固まってますねー、ちょっとほぐしましょう」なんて森に語りかけながら、見落としそうなかすかな不調に気づくと、手作業で溝を掘っては雨水を脇へと促したり、倒木を利用して流れを弱めたりと優しく手を入れていく。でも手は入れ過ぎない。「このへんで」と、いつも森へ“共働”することを求める。

すると数週間のうちに、乾いていた土は潤い、空気が少しずつ澄んでいく。雨水は還る道を取り戻し、森は自ら再生し始める。

「みえてきますよー」といつもの矢野さんの言葉には、自ら育っていくものへの共感と、それを見守り続けようとする、津波古の“共同一致”の心とどこか重なって聞こえた。

ヒュッヒュロロロ〜。

今年もまたあの声と一緒に、雨の季節がやってきた。

枯れ枝や石などで「抵抗柵」をつくり、雨水の流速を緩やかにすることで分散させ、土中への浸透を促していく

執筆者プロフィル

もとたけ・こうじ/アジアを旅する建築家。現在は津波古区を拠点に珊瑚舎キッズスコーレ森の校舎づくりなど地域の活動に関わる。

本竹さんの過去記事はこちら

https://note.com/kojimototake


毎週金曜日発行「週刊タイムス住宅新聞」アジアを旅する建築家が見た沖縄の暮らし(1)
第2100号(2026年4月3日発行)より転載