土を耕し、祝いの糧に|アジアを旅する建築家が見た沖縄の暮らし

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グワァーン、グワァーン、グワァーン。銅鑼(ドラ)の音が雷鳴のように鳴り響くと、背丈3メートルある巨人が登場してくる。(文・写真/本竹功治 建築家)

津波古“天人”/小端立て

沖縄県南城市津波古に古くから伝わる芝居、その名も“天人(アマンチュ)”。村の長者、大主(ウフシュ)(130歳のオジー)がひ孫と一緒に原野を耕しているところに現れて、「くぬ世はじみたる天人てしや(私はこの世を創造した天人だ)─」と言い、大主に長生きの褒美として五穀の種(米、麦、粟(アワ)、黍(キビ)、豆)と、その育て方を授ける。

天人は、「春の節を忘れたら、ウグイスの鳴き声がしるしだよ」「植えちきてぃ植え満ちてぃ、百日十日(ムムカトカ)(苗を植えてから110日手をかけなさい)」など、自然の声を聞くこと、土地と向き合うことを言葉に残している。また、地域によっては“天人”が落としていった土があるとか、足跡があるとか、天地創造の神にはいろんな言い伝えがある。

自然のきもち

“天人”が落としていったとされる“土”とはなんだろう。クチャ(泥岩の層)かな。

たしか島の始まりは、数百万年前に形成したクチャの層に珊瑚などが堆積し、琉球石灰岩となって重なってできたもの。そこで“天人”が地殻変動を起こして隆起した地層が顔を出し、島が形作られた。

そんな話をしながら、知人の誘いで「島の呼吸フィールドワーク」というイベントに参加していた。南城市で活動するNGO団体「自然のきもち」主催だ。

珊瑚礁に囲まれた知名崎海岸を歩いていくと、子どもたちは、スズメダイ! ウミウシ! カニ! と、鮮やかな生き物に大はしゃぎ。琉球石灰岩が覆う南部の地形は水を通しやすく、血管のように水脈が島中に広がる。「水脈は陸の生き物たちの暮らしに浸透し、たっぷりの栄養を含んで海へと流れるんだ」と、主催者のヒロさん(菊池洋樹氏)は言う。

そのまま海岸沿いを歩いていくと、次第に泥に覆われた岩礁、濁った水に、黒い砂と、灰色の景色に変わる。県南部でも開発や伐採による泥の流出で、沿岸の生態が崩れていると耳にしていたが、実際に目の前にすると、言葉につまる。「この泥は山や畑で地中に浸み込めなかった雨水が地表の土を運んできて積もったんだ」と、ヒロさんは続けた。

「あまにん崩し、くまにん崩し(あちこち崩して……)、自然のきもちを聞きなさい」と、“天人”に言われそう。

石灰岩の小端立て

昨今の造成や開発行為は、山や森だけでなく海の環境にも影響を及ぼす。「じゃあ、土を流さないようにするには、どうしたらいい?」ヒロさんの問いかけに応えるように、前号から続くプロジェクト、「珊瑚舎キッズスコーレ森の校舎」では新たな試みが始まった。

「何かの遺跡が発掘されたんですか?」と、通りすがりのおじちゃんが足をとめる。目の前には、炊きたての米のように並んだ、数千個の琉球石灰岩。頭ほどの大きさの岩を、手で一つずつ立てて並べていく。「これは、“小端立(コバダ)て”と呼ばれる昔からの工法なんです」「へぇ……」とおじちゃんは不思議そう。石同士が互いに押し合い、地中の土を締め固めず建物を支える。石と石の間にできた隙間は、島の石灰岩層のように空気と水を通し、雨水は土を攫(さら)うことなく地中深くへと浸透していく。

“小端立て”から生まれた新しい土の層は、森から海へひとつらなりの水脈となってつながっていく。

石と石がおしくらまんじゅうをしているイメージ。地面に炭を敷き、湿気の滞りを防いでいる

スタッフ、ボランティア、キッズたちとたくさんの協力で“小端立て”が完成した

10年ぶりの復活

話を戻そう。このたび10年ぶりに“天人”の芝居が復活した。出演するおじちゃんたちは、あれどこいったか、これなんだったかと、記憶を手がかりに昼夜、稽古に励んでいた。

“天人”が10年ぶりに新演出で復活! 久しぶりの上演に、てんやわんやの稽古風景(笑)

ふと“天人”が蒔(ま)いた五穀の種はその後どうなったんだろう? と思い、話を聞くと、戦後すぐのころは津波古でも田園風景が広がっていて稲作が盛んだったそうだ。山のほうでは、手長エビ(タナゲー)や、闘魚(トーイユ)。田んぼには、うなぎ(ンナギ)や、オカガニ(ケンタガニ)など、「幼い時分は採って遊んでたんだよ~」と、おじちゃんたちが、笑う。

最後はひ孫が出てきて「御祝(ウユエ)ぬ(みんなで祝おう)」と、“天人”の幕が静かに閉じる。

執筆者プロフィル

もとたけ・こうじ/アジアを旅する建築家。現在は津波古区を拠点に珊瑚舎キッズスコーレ森の校舎づくりなど地域の活動に関わる。

本竹さんの過去記事はこちら

https://note.com/kojimototake


毎週金曜日発行「週刊タイムス住宅新聞」アジアを旅する建築家が見た沖縄の暮らし(2)
第2109号(2026年5月1日発行)より転載