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2016年7月29日更新

ウチナーヤー造りの技 後世につなぐ熟練職人

60年あまりにわたって、沖縄の伝統的な建築技術を研さんし、改良や保存・継承、後輩の指導にもあたってきたムチゼーク(屋根瓦葺き職人)の山城富凾さん(84)と、ウチナーゼーク(沖縄大工)の親泊次郎さん(83)。今回は、屋根瓦葺きと在来の木造建築について伝統技術の特徴と独自の工夫を聞いた。二人に共通するのは、伝統の技や考え方を大事にしながら、時代に合わせて柔軟に、独自の技術や提案を生み出す姿勢だった。

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受け継ぐ知恵と技術 時代に合わせ改良も


沖縄の伝統的な瓦葺きの特徴の一つとして山城さんは、溝の設け方を挙げた。屋根の流れる方向が交差するときに生じる「谷」部分に赤瓦を使う場合、沖縄では溝を二つ作るのが基本。台風の多い土地柄、「溝が一つだと雨の降る量によっては水が溝からあふれ、雨漏りの原因にもなります」と山城さん。溝の長さに応じて、ときには溝を三つに増やす場合もあるという。
赤瓦葺きは、木造建築の屋根を想定した工法だが、コンクリート造でも基本的な施工法は変わらないという。
しかし建物の高層化が進んだ現代、高さがあるだけに屋根瓦への風当たりも強くなる。「高層住宅の場合は、銅線やビスで固定するなどの工夫が必要」。時代に合わせた施工法も考案し、瓦屋根の普及に一役買っている。

シーサーで関心呼ぶ
山城さんは現在、那覇市内に「しっくいシーサー工房」を構え、一般向けにシーサーづくりの指導もする。思い思いのシーサーづくりを楽しむ生徒たちの様子に山城さんは、「しっくいシーサーは赤瓦屋根に欠かせない存在。赤瓦に興味を持つきっかけになってくれればうれしい」と目を細めた。
2014年には、伝統的な瓦葺きの施工法とムチゼークとしての自身の歩みを記した著書「ムチゼーク 山城富凾60余年のあゆみ」も出版。先輩から見聞きして学んだ技術と知識を記録に残し、ライフワークとして伝え続ける。


屋根瓦葺き職人/しっくいシーサー工房主宰
山城富凾さん(84)
やましろ・とみじょう 1932年生まれ、国頭村出身。17歳のころ屋根左官の道へ。2010年には現代の名工に選ばれた。沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合顧問


山城さんの著書(非売品)。図書館などで読むことができる



沖縄の伝統的な木造住宅の技術の一つとして親泊さんが教えてくれたのは、木を金づちでたたいて圧縮する「木殺し」という手法。家を支える構造材に用いられる。「押し込んでやっと入るくらいに組み合わせるんですよ。木は湿気を含むと膨張するからより密着する」と親泊さん。湿度が高い上、台風にも耐えうる強さが必要な沖縄だからこその技だ。
親泊さんによると、建物を造るのに適しているのは秋に切り倒した木。「幹が成長しきって、水分も抜けて締まるから丈夫」。ただ、そういう木材が必ず手に入るわけではない。木の強度を高めるため、昔はクムイ(池)、フカダー(深い田んぼ)などを利用して木材を水につけた後、乾燥させて使っていたという。「樹液が抜けて虫がつきにくくなるし、粘りも出るから折れにくくもなる。自分の家を建てたときも、角材を池につけましたよ」。

自宅で残す伝統様式
那覇市内にある親泊さんの自宅は、木造軸組み工法の3階建て。「昔の技術を残すため」と、訪ねて来る人に造りを見せられるよう、天井や内壁を張らずに構造体をむき出しにしている。
沖縄では一般的に格子状になっていることが多い床下の換気口は、独自に工夫。寒くて乾燥する冬場は閉じられるよう、無双窓にした。「昔の技術を大事にしながら新しい考えや技術を取り入れることで、家は丈夫で長持ちする」と親泊さん。木造の伝統の技と魅力が詰まっている。


ウチナーゼーク
親泊次郎さん(83)
おやどまり・じろう 1933年生まれ、石垣島出身。船大工を経て建築の世界へ。ウチナーゼークとして多数の木造建築を手掛ける


親泊さん手書きの図面。上写真奥にある屋根を組むための図面だ
 


編集/比嘉千賀子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1595号・2016年7月29日紙面から掲載

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比嘉千賀子

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住まいと暮らしの情報紙「タイムス住宅新聞」元担当記者。猫好き、ロック好きな1児の母。「住まいから笑顔とHAPPYを広げたい!」主婦&母親としての視点を大切にしながら、沖縄での快適な住まいづくり、楽しい暮らしをサポートする情報を取材・発信しています。

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