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2017年1月20日更新

海を見渡す傾斜地の平屋|アトリエ・ネロ

沖縄本島南部、南城市の斜面に建つSさん宅は、大きな木屋根や二間続きの和室など「昔ながら」を取り入れ、自然を身近に伸び伸び暮らせる平屋。海を見渡す広い土間は、遊び、集いに大活躍だ。

「昔ながら」で伸び伸び

Sさん宅  混構造/自由設計/家族5人

一番座、二番座は、普段は仕切りを取り払ってオープンに使用。広々とした土間玄関のある南側は一面に掃き出し窓が連なり、通りを行き交うご近所さんや海も見える


遊び・集いに土間活躍
子どもたちは畳でハイハイさせたり、外で走り回らせながら育てたい。小さくても畑を耕し、収穫したての泥付き野菜をゴシゴシ洗って調理して、毎日の食卓に並べたい―。
そんな伸び伸びとした暮らしを望むSさん夫妻が建てたのは、四つの居室と水回りをL字型の土間が囲む「昔ながらの良さ」が生きる住まいだ。
例えば二間続きの一番座、二番座は、行事や来客の際は客間になるが、普段は土間と一続きの大広間として活用。広い畳間で夕飯を食べ、洗濯物を畳み、家族で就寝。「昼間、子どもたちとゴロゴロすると気持ちいいんですよ」と夫人。
各部屋は完全に仕切らず、上部をつなげたのもポイント。Sさんは「声は丸聞こえだけど子どもたちの様子が分かるし、開放的」とうなずく。
特に重宝しているのが、玄関兼用の大きな土間空間だ。海を見渡す南面は連なる窓から日差しが降り注ぎ「晴れた日は外にいるみたい」とSさん。風通しがいいから、夏はテーブルを出してビールを飲んだりバーベキューしたり。急な来客の際は土間でおもてなし。「汚れを気にせずラフに使えるのがいい。お客さんも『おじゃまします』じゃなく、気楽に来て帰れるしね」と喜ぶ。
夫人も使い勝手の良さを実感。「雨の日など子どもたちが濡れたまま入れるから玄関先で立ち往生しなくて済むし、遊び場にもなる」。集い、家事、子育てにと大活躍だ。

棚や石積みは自分で
土間のある家づくりのヒントになったのは、Sさんが大学時代に見学会で見た家だ。設計はその家を手掛けた建築士に依頼し、敷地は夫人の母から譲り受けることに。建築関係の仕事に就いていることもあり、西側土間は自分でブロックを積んで棚を仕立て物置に。外階段はSさんの父親、石積みは親戚が手作りした。
住み始めて10カ月。やんちゃ盛りの兄弟も今では畑の水やりを担当。「ピーマンもナスも食べるようになりました」と夫人。自然を身近に伸び伸び暮らせる住まいは、子どもたちの健やかな成長を後押しする。


駐車場側の入り口から室内を見る。玄関らしい玄関は設けておらず、土間から畳間や台所へ直接出入りするスタイル。昔ながらのアマハジ空間のような雰囲気も


土間の掃き出し窓側や、子ども部屋の窓側の柱は、花ブロックを積み重ねた中にコンクリートを流し込んで仕上げた。型枠などの廃棄物を極力減らせるようにと考えてのこと。


子ども部屋の机下には通風を促す地窓も設けられている
 

ここがポイント
建物浮かせて通風 地形にもなじませ

アウトドアが好きで、海や緑、土の匂いがする環境で子育てしたいと望んだSさん一家。夫人の実家も近く、従兄や親せきなど、よく人が集まる家でもあった。また敷地周辺は農地で、湿気が高い場所でもあった。
建築士の根路銘安史さんが重視したのは、いかに周囲の自然や人とのつながりを保ちつつ、快適な室内環境をつくるか。
そこで、建物が土に接する基礎部分は、建物中央に最小限に設け、床がそこから四方に張り出す形状に。基礎部分は床下収納として活用している。
こうしてできた建物は、裏手は地面と接しているが、表は床が浮いて斜面からせり出すようなカタチで風通しや眺めもいい上、地形や景観ともなじむ(外観参照)。間取りも通風を考慮し、室内は高い木天井で上部をつなぎ、子ども部屋の机の下に地窓を設けた。
根路銘さんは「コンクリートの段々とした擁壁は、自然の連続性も、近所との交流も遮断する。地形を残すことは、Sさん家族の豊かな暮らしにもつながる」と話した。


土間から見た台所。キッチンは、「お手伝いをし始めた子どもたちが何人並んでもOK」と夫人のお気に入り。


東側から見た外観。建物が斜面からせり出しているように見える。向かって左手、南側のせり出した土間スペースの下は、アウトドア用品や農作業道具を置いておくこともできる


カウンター向かいは土間を利用した物置スペース


洗面室。扉の上部を開けることで、通風、採光を促し、家族の気配も伝わる

[DATA]
家族構成:夫婦、子ども3人
敷地面積:479.18㎡(約115坪)
1階床面積:116.55㎡(約35.26坪)
建ぺい率:26.01%(許容70%) 容積率:24.32%(許容200%)
用途地域:無指定
躯体構造:鉄筋コンクリート造+木造
設 計:アトリエ・ネロ 根路銘安史、水上浩一
構 造:パス建築研究室 新川清則
施 工:(有)匠建 仲与志昌建
電 気:松島電気 松島良成・新里英仁
水 道:真開工業 與那城司
ガ ス:沖縄協同ガス(株) 並里宗志朗
[設計・問い合わせ先]
アトリエ・ネロ
098-889-0103
www.a-nero.com​
写真/矢嶋健吾 撮影  編集/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1620号・2017年1月20日紙面から掲載

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