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沖縄建築賞

2015年6月5日更新

第1回沖縄建築賞|審査講評

このほど、入賞作品7点が決まった「第1回沖縄建築賞」。通風や眺望を取り込む大胆な空間構成や、緑化を意識した全体計画など、『沖縄らしい』建築の多彩な提案に評価が集まった。6月8日午後2時から、那覇市のタイムスギャラリーで表彰式が行われるのにあわせて、審査委員の講評を紹介する。

通風や眺望 空間に反映

 正賞・住宅建築部門 
海をのぞむ家  うるま市 畠山武史(40)

全室が海に向けて開く
●不整形な敷地に、壁を雁行(がんこう)させながら全ての部屋が海に向かって開放される平面計画は秀逸。逆梁(ぎゃくばり)を用いたコンクリート直仕上げの天井は外部空間へ連続し、伸びやかな空間を生み出している。自然通風を充分に取り入れようとする工夫も評価できる。
●素材や質感の調和に細かい配慮が見られる。全体的に設計や施工に手堅さ、レベルの高さが見られる。
●まるで穴蔵のような躯体。おのずと遥かな水平線へ視線が吸い込まれる感覚がする。風と同時に虫も鳥も、この部屋を往来して良いという度量の大きさもさることながら、この地の風土を生かそうとする心意気が良い。
●玄関周りには、涼を感じさせる水盤を配置し、開口部も風の流れが考慮され、好感が持てる。住宅内部に段差があり、気になる。
●沖縄の気候風土に真摯(しんし)に向き合う姿勢を感じる。フルオープンの開口部への台風時の配慮も充分にされていて、安心感がある。ただ、ダイニング・リビングの空間と他の部屋との関係がもう少しファジーにつながれば、もっと沖縄らしい大らかさが生まれたかもしれない。
●室内は一見、冷たい印象だが、落ち着いた壁色やアンティークな照明、家具などでリラックスできる。

 正賞・一般建築部門 
SOLA 沖縄保健医療工学院  宜野湾市 石川保(38)

外部空間を豊かに演出
●立体駐車場や倉庫に囲まれ、学校建築には不向きと思われる敷地で、ボリューム(ボックス型の教室)の間に作り出された、多様な外部テラスやブリッジ、吹き抜けなどがダイナミックな新しいキャンパス空間を作り出すことに寄与している。それらの空間は外と連続し、自然通風を取り入れる役割も果たしている。
●設計主旨にある「授業に出席しなくてもよいから毎日通学したくなるような学校」を、キューブ(ボックス型の教室)間の多様な隙間を用いて全体構成するという視点はユニーク。半戸外のテラスや通路をその隙間に配置することによって、亜熱帯沖縄ならではの新たな地域性の表現が展開している。上層階に見られる豊かな外部空間が1階に少なく、キューブの外に構造柱が露出している点は気になる。
●多くある吹き抜けは、雨の日には雨を、風の日には風を感じさせ、外界を身近なものにしている。廊下や階段などが外にあり、各教室につながるのだが、少しずらすことで複雑な構造を感じ、楽しげである。
●ローコストに徹し、建物の半分を占める外部空間を実現した設計者の熱意を高く評価したい。
●箱を無秩序の積み上げたようでいて、全体的にバランス感があり、段違いの教室、オープンスペースの配置、斜めやらせん状に走る階段が面白い空間を生んでいる。建物の中央の吹き抜けに面した廊下からは、階の違う教室ものぞけて、学生の特権である開放感、自由度を尊重しているようだ。


 タイムス住宅新聞社賞・一般 
Vernacular create Apartment  沖縄市 大城貢(54)

コンクリート仕上げ多彩
●菱(ひし)形の敷地に四つの長方形を雁行させ、その両側に小さな三角形の外部空間が作られている。外部空間は光と影に彩られた緑の坪庭となり、狭い敷地が有効に利用されている。外壁のコンクリートには太い縦目地が入れられ、荒々しさが強調されダイナミックな外観を作り出している。
●難しい敷地形状にもかかわらず、オフィスとアパートを組み合わせ、個性的な造形にまとめた力量は注目される。コンクリート打ち放し仕上げのバリエーションにもこだわりが見られ、戦後沖縄のコンクリート建築文化の上に咲いた花ともいえよう。
●玄関や浴室など、効果的な色彩のあり方も色の性質を活用していて好感が持てた。
●コストプランニングにも工夫が凝らされ面白い建物である。この建物を理解してくれる住人に貸してあげたいという、クライアントの思いが十分に伝わるような建物である。
●前面道路の植栽帯を上手に建築に引き込み、共同住宅の共用部分を豊かな空間に仕上げている。リブの付いた荒々しいコンクリートと南国的な植栽が街のランドマークを形成し、魅力的な街並みを創り出している。
●居住者用駐車場の空間を広場的に建物で囲むようにするなど、ひとつのコミュニティーを形づくっているようで面白い。


 奨励賞・住宅 
森をクサティにしたセカンドハウス  石垣市  門口安則(52)

目線を大切にした床高
●リビングの背後に作られた壁が,デッキや坪庭、アプローチ空間の魅力を生み出すことに成功している。海側に向かって天井を上げる片勾配とし開放感を生み出しているが、門型を支えるための柱は省けなかったかとやや悔やまれる。
●セカンドハウスという特別な用途で、平面計画やディテール、そして森側の大胆な横長窓は成功しているといえる。
●目線を大事にした床レベル、仕上げ材にも安価な材料で和の空間を表現した点を評価したい。
●森への窓をあれだけ準備されると、人は森を想わずにはいられない。生き物との交流が、おのずと始まりそうでワクワクする。


 奨励賞・住宅 
風を生み、空に近づく家  浦添市 前田慎(45)

(高野生優撮影)
塔屋で風を呼び込む
●ペントハウス(塔屋)を蓄熱空間にし、そこで得られる空気の流れで風を呼び込む。沖縄の気候風土にはこのようなディテールが特に配慮されることが大事ではないかと考える。
●小規模な住宅の設計で、書類審査では平面計画や空間の組み合わせに多くの推敲(すいこう)の跡が感じられた。しかし現地審査では、取り分け大きなガラス窓や大きく伸びた玄関庇(ひさし)、前面道路のファサードが周辺に対して閉鎖的に感じられ、マイナス要因となった。
●リビング・ダイニングを2階に配し、窓を全面開口として眺望が最大限楽しめる計画。外部の雨端(アマハジ)が実際にどのように使われるか興味がある。
●住宅の中央に配された階段をオープンにすれば、より奥行きのある空間が生まれたのではないか。
●玄関を入るといきなり子ども部屋があり、しかもリビングダイニングが2階にあるというのも意表を突かれた。


 奨励賞・一般 
那覇市民共同墓  那覇市 伊良波朝義(48)

周囲の緑と調和 意識
●既存の緑地を守りながら高さを抑え屋上を緑化するなどして、将来この施設を周囲の緑に溶け込ませようとするランドスケープの提案も評価できる。
●個々の建築における部分的な収まりには異論の余地もうかがえるが、計画の全体性という点において見るべきものがある。
●一見して伝統的な亀甲墓を想起する。デザインは、沖縄の死生観をも継承しているように思う。ヒンプンガジュマルで新たな軸線を加えて既存の構造物及び緑地との相互関係を引き締め、さらに物語性を広げたのも良い。
●共同墓正面のモニュメンタルな柱の柱頭に、デザイン的処理への配慮が少し欲しかったと思う。


 審査委員特別賞・一般 
那覇市本庁舎  那覇市 國場幸房(75)

街中の環境改善に貢献
●緑被率が低く、緑を必要としている県都・那覇市の市街地で、市庁舎は対面の複合施設の緑化と共に同地区の環境改善に大きく貢献している。
●大規模な役所建築でありながら、壁面全体を緑化しようとする野心的な提案。地球規模でCO2削減が叫ばれる現代にあって、こういう試みは十分に評価されても良い。
●長期にわたるメンテナンスは気に掛かる。台風と太陽との共生は大変であり、庁舎の挑戦に期待したい。
●6階までの各階をセットバックし、周辺に圧迫感を感じさせない。
●街中に大きなムイ(森)を創り出すような、大胆な緑化計画が素晴らしい。

 審査委員 
委員長・古市徹雄(建築家)/小倉暢之(琉球大学工学部環境建設工学科教授)/名嘉睦稔(版画家)/西里幸二(県建築士会会長)/仲元典允(県建築士事務所協会会長)/島田潤(日本建築家協会沖縄支部支部長)/比嘉弘(タイムス住宅新聞社代表取締役社長)※役職は5月20日現在

 応募47作品を公開 
8日~14日 タイムスギャラリーで
「第1回沖縄建築賞」の入賞7点を含む、全47点の応募作品が、6月8日(月)から14日(日)の7日間、那覇市久茂地のタイムスギャラリーで公開される。入場無料。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1535号・2015年6月5日紙面から掲載

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