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2024年4月19日更新

ラグと生きる人々の想いや歴史ごと持ち帰る|ラグの世界③

イランやトルコなどの中東で手織りされるラグを取り扱う那覇市西の「Layout(レイアウト)のバイヤー、平井香さんによるラグ買い付け旅記。ラグ最大の産地・イランで、謎多きラグ「ヤラメ」を探しに出掛けた。

 

エピソード③ イランでの買い付け旅

イラン南西部のラグ産地・アバデから北上し、「ヤラメ」というラグの故郷・アリーアバードという村を探しに行くことにした。ヤラメのラグはカラフルな色使いとひし形のデザインが特徴。だが「ヤラメ」というのが民族なのか、場所なのかさまざまな説が飛び交い、はっきりしないので実際に訪れたいと思っていた。

道行く人に尋ねると同じ名前の村が近くに二つあることが分かった。無数のアリーさんが存在するこの国では「アリーさんの場所」の意味を持つこの地名は、信じられないほどあちこちにある。すれ違う人に道を聞いて一つ目のアリーアバードへ。閑散とした静かな村で、ラグの気配はなかった。


鮮やかな色使いが特徴の「ヤラメ」のラグの制作風景。生成りの経糸(縦糸)に鮮やかなウールのパイル糸を結んでいく


デスクに掘り出し物

もう一つのアリーアバードへ向かうと、村の入り口には大きなラグの写真の看板が見えた。私たちが探していた場所で間違いない!

6月上旬のひどい暑さで、外を歩いている人がほとんど見つからない。薄茶色の景色の中に、1軒だけ目を引くカラフルな糸がたくさん掛けてある店を見つけた。訪ねてみると、ここのオーナーさんは以前に私たちがラグをセレクトした店のオーナーと兄弟だということが分かり、ホッとする。店はラグを織るための糸で埋め尽くされている。わずかにあったラグを見せてもらい、何枚かセレクトする。

どのラグの店にも1台はある事務用のデスク。その上にはたいがい小ぶりのラグが敷いてあり、お気に入りを敷いているのかいい具合のヴィンテージラグが見つかる。ここのデスク上のラグもツヤ感のあるきれいなヤラメのラグだったので「買いたい」と伝えると、「なんでこれが欲しいんだ?」と皆同じような反応をするから面白い。
 
アリーアバードの糸屋。店内はカラフルな糸で埋め尽くされていた


イランでラグの店に行くと、事務用デスクの上に良い具合のヴィンテージラグが敷かれていることが多い
 


現地での出逢い

隣の自宅で家族がヤラメのラグを織っているというので見せてもらう。水平織機には鮮やかなラグが織り進められていた。裏から目立たないようにこげ茶色の緯糸(横糸)を通し、一段結び終えたらパイルを専用のハサミできれいにカットしていく。どこのラグも基本的な構造は同じだが、結びの形や緯糸の通し方、使う道具はさまざま。

この村に住むカシュガイ族のヤラメのおじいさんにも話を聞くことができた。ヤラメというのは、この辺りに住む人々のグループ的なものだと思われる。今から約1千年前からヤラメはこの辺りに定住し始めて250年前からラグを織っている。ヤラメのラグはこの村がルーツで、遊牧していた時代の冬の間の住まいがここアリーアバードだったそう。今はペルシャ人とカシュガイ族のヤラメがこの辺りに住んでラグを織っていると教えてくれた。直接、ヤラメの人に話を聞けて、アリーアバードを訪れたかいがあった!

ラグとともに生きる人たちに会い、話を聞いてラグをセレクトする。デザインやモチーフの解釈に織り手それぞれの考えや想(おも)いがあり、ラグをセレクトしながらそのエピソードも集めて多くの人に伝えたい。私たちは、ラグに関わる愛すべき人たちと出逢(あ)い、ラグと出逢うのです。



執筆者/ひらい・かおり
ラグ専門店Layout バイヤー
那覇市西2-2-1 電話/098・975・9798
https://shop.layout.casa

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1998号・2024年4月19日紙面から掲載

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