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2021年12月10日更新

[沖縄・建築探訪PartⅡ⑱]SDGsで沖縄の建築と街を考える

次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。文・写真/福村俊治

SDGsで沖縄の建築と街を考える


SDGs(エス・ディー・ジーズ 持続可能な開発目標)の2030年までに「貧困をなくす」「差別のない社会を作る」「環境を大切にする」方針・目標。

米軍基地(沖縄県)

世界各国が抱えている環境問題、貧困、開発汚染、性差別、教育格差などの課題に対して、「SDGs(持続可能な開発目標)」というアジェンダ(行動計画)が叫ばれている。そして温暖化による気候変動を食い止めるために、CO2削減の国際会議・COP26がつい最近イギリスで開かれた。沖縄でもSDGsやCO2削減の話題を最近よく聞くが、一般論が多く、沖縄の建築や街の特殊実情を踏まえた的確なものが少ない。

そもそも沖縄は、日本の南西端にある小さな島国で、温暖で自然豊かなところだ。一方、高温多湿で強い日差しや暴風雨、塩害のある厳しい地域でもある。そのため建物が20~30年でボロボロになって建て替わるのが普通だ。最近は省エネやCO2削減の法律によって、断熱材を使った、開口部の小さい閉鎖的な建物が沖縄でも推奨されつつある。しかし温暖な沖縄なら伝統的木造住宅のように自然の風を取り入れ、こもる熱気を逃すことが優先されるべきだ。

そして街は、都市計画が不十分なまま、自然を壊すような都市のスプロールが今なお続く。今では自動車での通勤や買い物が一般的で、高気密高断熱住宅に住み、ハイブリッド車や電気自動車に乗り換え、エコバッグを使用する生活こそがSDGsやCO2削減と思われている。沖縄では今でも道路も建物もスクラップ・アンド・ビルドが繰り返され、廃棄物の処理や新しい資材の製造と運搬に多大な費用とエネルギーを使い、CO2を排出し続けている。海の埋め立てや緑地の宅地化などはもってのほかだ。今話題になっている書籍『人新世の資本論』(斎藤幸平著)には「経済成長どころか、このままだと地球が破滅する」と、警告している。

防水がされていなかったため爆裂した屋根スラブ下。


外壁塗装の維持管理不備によって爆裂した外壁


返還される前の那覇新都心(マチナトハウジングエリア・牧港住宅地区)。沖縄の市街地と米軍基地住宅の比較。


嘉手納基地内の住宅地区。手入れの行き届いた大木と芝生。
建物外壁には建物番号と塗装した日付が明記されている。


嘉手納基地第1ゲートにつながる幅広の4車線のメイン道路。



上下:嘉手納基地内の幅広の道路。


計画と維持管理が重要

同じ沖縄にある、米軍基地はただ広いだけでない。多くの建物や外構はすでに70年近くたつがしっかり維持管理され昔のままだ。以前基地内で設計や維持管理に携わる方に教わったが、機能性・経済性・耐久性が最優先され、無駄なデザインや劣化する原因は一切許されないそうだ。住宅の屋根スラブ厚はたった7~8センチでシングル配筋、内外とも塗装仕上げでシンプルかつ経済的な造りだが長寿命だ。

なぜ基地内コンクリートが劣化しないのか、答えは定期的な塗装だ。「鉄筋が錆(さび)る」とは「酸化すること」つまり、防水と塗装を繰り返せば空気も水も遮断する。沖縄で打ち放しコンクリートは適さない。基地内は樹木も芝生も手入れされ、夏に入れば涼しい。道路も最初から幅広で管理もされている。つまり、建物や街は、計画と維持管理が重要だ。このままだと基地がなくなる前に、地元沖縄がなくなる。

[沖縄・建築探訪PartⅡ]福村俊治
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1875号・2021年12月10日紙面から掲載

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