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2020年4月10日更新

デザインの力で人の流れを吸引(那覇市)|オキナワンダーランド[49]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。

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ガーブ・ドミンゴ(那覇市)


街の内側から街づくりに貢献したいと、デザイナーの藤田俊次さんが那覇に移り住んで開店した「ガーブ・ドミンゴ」。洗練された美意識がつまった店は、人の流れを地域に引き寄せる“呼び水”になっている


藤田俊次さんが生まれ育った街には、数百メートルにわたって続く立派なけやき並木がある。それと比べたら迫力に欠けはするものの、那覇の公設市場の近くにも並木道のオアシスがある。都会の小さな空に向かって、10数本のホルトノキが緑したたる枝を伸ばしている。

「この場所に店を開くことにした大きな決め手は、目の前の並木道でした。並木のある所って、並木が育つにつれて周囲の街並みも一緒に育つような感じがして好きなんです」

空間からロゴまで幅広く扱うデザイナーとして東京で働いていた藤田さんは、11年前、心境に変化が訪れて沖縄に移り住み、器や雑貨のセレクトショップ「GARB DOMINGO(ガーブ・ドミンゴ)」を開いた。

「仕事を楽しんでいましたが、パソコンに向かって図面を描くことだけがデザインではないような気がし始めたんです」

少年の頃、夏休みのたびに親に連れられて車で全国各地をめぐった体験から、国内外の街並みに興味を持つようになった藤田さん。「自分に一番合った表現手段だと思う」デザインの角度から街づくりに関われたら面白そうだと考えついた。

「パソコン上でではなく街の中で、そこで自分自身を動かすことでデザインをしてみようと思ったんです。どんな店を作るのか、店をどう街づくりにつなげるかを考えるのも、結局はデザインですから」

「自分自身を動かす」場所として選んだのは、妻の出身地であり、「変化しそうな余地を街全体がはらんでいた」那覇で見つけた小さな並木通りだった。

「当時ここは人通りが少なくて、シャッターを閉じた店が多くありました。だけどシャッターが閉じているということは、入っていける余白があるということ。店を構えて、人の流れを呼び寄せたいと考えました」

古びてはいたが趣のある空き店舗を借りて、自分でデザインをして内外装を作り替えた。それまで素通りされていた建物が、「すごくいい」と褒められるようになった。美しい空間と洗練された品ぞろえの吸引力に引き寄せられて、県内外からお客さんがやって来た。「このエリアが気に入った」と言って近所に出店する人も現れた。シャッターが一つずつ開き始めた。思い描いていた「人が人を呼び、店が店を呼ぶ流れ」が生まれた。

「僕が流れを起こしたわけではありません。僕にできるのは、せいぜいきっかけ作り。『この街、いいな。那覇って、沖縄っていいな』と思ってもらえるきっかけを作ることだけです」

しばらく離れていたパソコンの前に最近は戻ることも増えてきた。時代が求めるデザインを巧みな手品のように編み出す藤田さんのセンスにほれ込んだ人たちから店舗などのデザインを頼まれることが絶えないのだ。

「以前は積極的に引き受けるのをためらっていましたが、街の中で店を営んできた自分だから提案できるデザインもあるのかもしれない、と今は考えています」

これまでに手がけたのは市内の飲食店や離島の観光案内所など。藤田さんのデザインの“呼び水”が、新たな人の流れをそこかしこに作り出している。


「店は街の構成要素。店が面白くなれば街も面白くなる」と話す藤田さん。街に一体感を生み出すことを狙って周辺エリアに“浮雲(うくも)”と仮の呼称を付けて仲間と不定期でイベントなどを行っている


店舗は、「ひと目見て気に入った」築半世紀の建物。古い内装が残っていたのをはぎとって素の状態に戻し、「建物に元々備わっていた良さを引き出す」デザインを考えて入れ込んでいった。「建物が若返った」とよく言われるという


取り扱う商品は、「伝統に根ざしながら現代的な新しさを表現している」沖縄の作家ものが多い。2階で年に数回展覧会も行っていて、この日は手すきした芭蕉(ばしょう)紙でうちわや扇子を制作する坂奈津子さんの作品を展示していた


元美容学校を藤田さんがビアバーに変身させた「浮島ブルーイング」。代表の由利充翠さんは「れんがの壁に木のテーブルに鉄の照明と、異素材の取り合わせが絶妙です。10人が座れる大テーブルは出会いが生まれる場になっています」と話す

◆ガーブ・ドミンゴ
098・988・0244

オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景



[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。


『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<49>
第1788号 2020年4月10日掲載

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