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2020年2月21日更新

宗教建築と旅の魅力|ロンドン住まい探訪[10]

文・比嘉俊一

番外編 -ドイツー
ブラザー・クラウス・フィールド・チャペル

建築と道のりと参拝の文化
在英時、年休や長期休暇を利用してヨーロッパの建築や都市を巡った。お目当ての建築は都市部から離れた場所にあることも多く、スマートフォンが普及していない当時は多少難儀したが、思い返すと良い旅の記憶として残っている。

2008年秋、ドイツ西部のメッヒャーニッヒにあるブラザー・クラウス・フィールド・チャペルという、スイス人の建築家ピーター・ズントーが設計した自然の中にたたずむ小さな教会を目指した。初日宿泊したベルリンからICE(高速列車)でケルンまで約5時間、翌朝に最寄り駅のSatzvey(ザッツヴァイ)まで約1時間。そこから運よく通りすがりのドイツ人のおじさんの車に乗せてもらい、迷いながらも30分、何とかたどり着いた。ドイツ語と英語でお互い全く話は通じなかったが、スケッチとたどり着きたい熱い思いで何とか伝わったようだった。
 
田園風景の中に建つブラザー・クラウス・フィールド・チャペル。この小さなコンクリートの教会は施主とボランティアによって施工されている


絵に描いたような牧歌的な農村が移り行く景色の中、大地にたたずむ教会が見えた時は、何とも言えない達成感。たどり着くまでの道のりすべてが一つの建築のアプローチのようで、昔旅したフランス西部のコルビュジエのロンシャン礼拝堂にたどり着いた時も同じように感じた。外国の旅行者が伊勢神宮や出雲大社などの神社仏閣の建築とそこまでの道のり、参拝の文化に興味をもつように、宗教建築巡礼は旅の魅力の一つだろう。今回はヒッチハイクという手段で巡礼者としてはちょっとズルしたような気持ちになったので、帰りはゆっくり景色を楽しみながら歩いた。
 
土を混ぜたコンクリートを50㎝ずつこつこつと打っているので地層のような表面の仕上がりが現れている。壁の黒い穴は明かりとり
 
天井にはくり抜いたような穴。自然光とともに雨もおちる。内部は丸太を型枠とし、打設後に2週間かけて焼き落とされており、洞窟のような原始的な祈りの空間となっている
 
フランス西部、ル・コルビュジエ設計のロンシャンの礼拝堂


年末の旅で気持ち切り替える
設計者として独立した今も、年に1度旅をしている。去年末には兵庫県の山中に建つ、イギリス人の建築家デイヴィッド・チッパーフィールド設計の猪名川霊園礼拝堂・休憩所へ。こちらも1日がかりの旅だったが、道のり・建築ともに楽しめて充実した旅となった。思い返すと秋から年末にかけての旅では宗教建築を訪れることが多い。1年の反省事や年始の目標を考えるもので、気持ちを切り替える場としてはこれ以上ないのかもしれない。さて、次はどこへいこう。
 
猪名川霊園礼拝堂内部。光と影、そして中庭の自然でつくられた来訪者のための祈りの空間。外壁まわりは赤土色に調整されたコンクリートの質感で統一されている

 

ひが・しゅんいち/1980年生まれ。読谷村出身。琉球大学工学部卒業後、2005年に渡英。ロンドンでの大学、設計事務所勤務を経て、16年に建築設計事務所アトリエセグエを設立。住み継がれる建築を目指す

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1781号・2020年2月21日紙面から掲載

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