空間デザイン心理士Ⓡで一級建築士。2児の母でもある、まえうみ・さきこさんが、空間を心理的に解析する。今回は「眠り」を誘う空間づくり。特に40代〜50代の働き盛りに多い「眠れない」という悩みを、空間から改善するヒントを紹介。(文・画像作成/まえうみさきこ・ielie)
「眠れない…」働き盛り 眠れる場所をつくろう
5人に1人が不眠 特に50代男性顕著
「最近、しっかり眠れていますか?」そう聞かれたとき、「はい!」と自信を持って即答できる人は意外と少ないものです。「まあ、なんとかね」「少し眠りが浅いかも」。どこか曖昧に答えていませんか?
不眠はいまや国民病といえるほど身近な問題です。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、日本人成人の約5人に1人が「睡眠で十分な休養がとれていない」と回答しています。
それは40〜50代の働き盛りの男性に顕著です。あるアンケートでは、50代男性の6割以上が「睡眠に満足していない」と回答しています。
職場では責任のある立場で仕事に追われ、家庭でも気が抜けない毎日。真面目で責任感の強い人ほど、眠れていない。そんな現実があります。
疲れているのに眠れない原因は
眠りと体の関係を語るとき、欠かせないのが「自律神経」です。自律神経には、日中に活発になる「交感神経」と夜・休息時に優位になる「副交感神経」の2種類があります。例えるなら、交感神経が「アクセル」で、副交感神経が「ブレーキ」。この二つが切り替わることで、私たちは昼間に活動して、夜にちゃんと眠れるのです。
ところがストレスや疲れが蓄積すると、夜になっても交感神経の緊張が続き、体が「休息モード」に切り替わりません。これが「疲れているのに眠れない」という状態の本質です。
「ひどい病気じゃないし、まあいいか」と思っていませんか? それが落とし穴です。自律神経は全身の血管・内臓・ホルモンなどに関わっています。眠れない日が続くと、体のあちこちにほころびが出てきます。こんな経験ないでしょうか。
- 朝起きても、なんだかすっきりしない
- 肩がこる、頭が重い、目が疲れやすい
- 胃がもたれる、食欲がわかない日がある
- 以前より、イライラしやすくなった
- やる気が出ない、集中力が落ちた
これらを「年齢のせい」「仕事が忙しいから仕方ない」「ちょっと眠りが浅いだけ」と軽んじていませんか。しかし、それは自律神経の乱れによる不眠が根っこにあるかもしれません。自律神経の乱れから来る不調は、動悸(どうき)・めまい・耳鳴り・頻尿・便秘と多彩です。しかも、検査しても「異常なし」と見過ごされるケースも少なくありません。
「眠れない」は環境に問題あり
「なかなか眠れない」という方は、まず空間を見直してほしいのです。住まいの専門家として私がいつも感じるのは、眠れない人の多くが「眠れない環境」で、無理やり眠ろうとしているということ。
睡眠の質は、さまざまな感覚(視覚・聴覚・温熱感覚・触覚・嗅覚)への刺激に大きく左右されます。その五感への刺激を考慮して空間を整えることは、賃貸でも、きょうからでも始められます!
例えば夕食後は間接照明で過ごしたり、体を温めたり、優しい音や香りを流すなどの工夫で眠りやすくなることもあります。
「眠れない」は、気合いや根性で乗り越えるものではありません。環境の問題です。体は正直で、「眠れる場所」に置かれると、ちゃんと眠ろうとします。
住まいを整えることは、眠りを整えること。眠りを整えることは、自律神経を整えること。そして自律神経を整えることは、全身の健康を守ることにつながっています。
特に寝室は、一日の終わりに体と心を預ける場所。今夜、寝室の照明を少し落とすことから始めてみませんか。
眠りを誘う空間づくり
今日から(賃貸でも)始められること
- 夕食後は天井付けの照明を消し、電球色の間接照明だけにする
- 就寝時はスマートフォンを手元近くに置かない
- 就寝90〜120分前に40度、15分の入浴(足湯でもOK)
- 川の音・雨音などの自然音を流す(アプリで無料)
- ラベンダーのアロマを枕元に置く
- 枕の高さをタオルで調整してみる

家づくりで取り入れたいこと
- 寝室の照明は調光・調色機能付きに(夕方から暖色・低照度へ自動変化)
- 防音性の高い壁・窓(縦すべり窓や複層ガラスで静音化)
- 断熱・遮熱設計で夜間も室温を安定させる(沖縄の熱帯夜対策にも必須)
- 無垢材など自然素材を寝室に取り入れ、香りと触感でいやす
- エアコンの位置を工夫し、体に直接風が当たらない配置計画を
[視覚]夜は光を落とす

眠りを促すホルモン「メラトニン」は、光が少なくなると分泌が始まります。逆に、スマホやPCのブルーライトは「まだ昼間だ」と脳に誤信させ、メラトニンの分泌を妨げます。夕食後は天井付けの照明を消し、電球色のフロアランプや間接照明だけで過ごしてみましょう。それだけで眠気の訪れ方が変わってきます。
これから家づくりを考えている方は、寝室の照明は調光・調色機能付きのものにすることをお薦めします。夜に向けて光を優しく落としていくと、睡眠の質が変わると思います。
[温熱感覚]眠る前に体を温める
よく耳にする「就寝2時間前にお風呂で体を温めると眠りやすい」というのは、科学的に正しい話です。入浴により上がった体の深部体温は、徐々に下がっていきます。この「体温の急降下」が、心地よい眠気を呼び込むのです。九州大学の研究でも、就寝1.5〜2時間前の入浴が睡眠の質を高めることが確認されています。
ポイントは40度程度のお湯で15分の全身浴です。熱過ぎる(42度以上)と、交感神経を刺激することになり、逆効果です。足湯でも一定の効果があります。
それを家づくりに落とし込むと、断熱性の高い窓や適切な空調計画で寝室温度を整えること。睡眠の質に直結します。
[聴覚・嗅覚]音と香りで体を緩める
完全な無音より、そよ風や川のせせらぎのような不規則な自然音が入眠に向いています。スマートフォンのアプリで「ホワイトノイズ」や「雨音」を流し、タイマーで切れるように設定してみてください。
また、香りも副交感神経に直接働きかけます。ラベンダーやカモミールのアロマを寝室に置くのが手軽でおすすめです。
執筆者プロフィル

まえうみ・さきこ/1976年、嘉手納町出身。建築会社に20年勤務したのち、2021年6月に「ielie(イエリエ)」を設立。建築の知識やママの経験を生かして、住まいの悩みに応じたコンサルティングやインテリアコーディネートを行う。一級建築士、空間デザイン心理士®、夫、2人の子ども、猫2匹と暮らす。
ielie(イエリエ)ホームページ
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毎週金曜日発行「週刊タイムス住宅新聞」家と心理(51)
第2109号(2026年6月5日発行)より転載
