読了時間 約4分
本土とは異なる気候に属する沖縄建築はこれからどう変化するのだろうか。県内建築家の建築観やアマハジなど独自の沖縄建築の詞(ことば)が蓄積されてきた。本連載は日本建築家協会(JIA)沖縄支部の会員らがそれぞれの観点から、「亜熱帯の建築『詞』」について考える。今回は細矢仁さんが環境に配慮したコンクリート建築の取り込みを語る。(文・写真・図/細矢仁 日本建築家協会沖縄支部会員、細矢仁建築設計事務所)
母校の大学で講師を務めた設計製図の講評会で、コンクリートを多用した案に対して、留学生が「コンクリートを使い過ぎじゃないか?」と厳しい指摘をしました。彼が学んだフランスで鉄筋コンクリートを使った提案をすると、教授陣から環境に対する考え方を厳しく問い詰められるとのこと。彼が「根拠薄弱なコンクリートの使い方は批判の対象になる」とコメントしていたのが強く印象に残りました。
CO2排出量からコンクリート使いにくく
コンクリートは製造・建設過程で大量の二酸化炭素(CO2)を排出し、全産業界の中で建築領域が排出するCO2量は30パーセントを超えています。海外の設計コンペでは建築にかかるCO2排出量の資料添付が必須になっていたり、と社会通念上コンクリートが使いにくくなっています。
一方、戦後沖縄では多数の鉄筋コンクリート建築が建てられてきました。原料である石灰岩が地元で手に入り、セメントを自給自足できた背景が普及に拍車をかけました。しかし、環境配慮の観点から潤沢にコンクリートを使った建築行為は難しくなりつつあり、沖縄でも使う以上は高耐久で適切な使い方をしなくてはならない時代が来ています。
そのような背景から、コンクリート使用量を抑え、耐久性とデザインを両立させうる建材として「HPC®(ハイブリッドプレストレストコンクリート)」が生まれ、県内外の案件で実装されてきました=写真1、写真2。


写真1(左)。那覇文化芸術劇場なはーとはHPCRで造った首里織のスクリーンの外観が印象的だ
写真2(右)。星のや沖縄はグスクから着想を得た「グスクウォール」にHPCRが使われている
厚さわずか40ミリHPC®、耐久性とデザイン両立
HPC®は日よけルーバーや穴あきスクリーンとして実装されてきましたのでご覧になったこともあるかと思います。コンクリートを鉄筋ではなく、カーボンワイヤで補強したHPC®は塩害で爆裂することなく、沖縄の厳しい気候風土に対抗しながらも最薄40ミリという薄さで洗練されたデザインを実現しています=写真3。

写真3。HPC®で製作された縦ルーバーやデザインパネルなどが四方を囲んでいる(株)技建の本社ビル
宜野湾市に建設中の「okicom本社ビル」ではHPC®のルーバーが厳しい日射を遮り、外部へのプライバシーを確保するだけでなく、さびる材料を使っていないことから雨どいや植栽への灌水装置としても機能しています=写真4、図1。

写真4(左)。ルーバーが雨水の通り道になって、植栽への給水を兼ねている
図1(右)。HPCRはカーボンワイヤ補強のためさびる心配がなく、水を通す装置としても使える
雨が滴るルーバーの室内側には広いベランダと植栽が配置され、オフィス空間へ良好な環境を提供しています。古民家のアマハジがオフィスビルファサード(正面部)に微分されながら配置されている、というわけです。
コンクリートの「いろは」を若手建築家と考える
JIA沖縄支部では建築を学ぶ若手を対象に「沖縄未来建築塾」を開催し、座学や工場・現場・作品見学を通して知見を高める施策を行っています。2019年には南城市の(株)技建を訪問し、HPC®を使った本社やコンクリート二次製品工場を見学=写真5。試験室では生コンへの減水剤の効果を実感するワークショップも行いました。

写真5。若手建築家とともに、材料の生産過程から建築を考えた「沖縄未来建築塾」の様子
これからの沖縄建築を担う若手にコンクリートの「いろは」を考えてもらうことが非常に重要だと思っています。若い世代に今後どのように社会資本を作って行けばいいかを風土性を考慮しながら問題意識を持ってもらえるよう、設計・材料開発の立場から作品や建材・未来塾などを通して共に考えていきたいと思っています。
執筆者プロフィル

ほそや・じん/1968年滋賀県生まれ。95年東京理科大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、(株)妹島和世建築設計事務所(SANAA)勤務。2003年一級建築士事務所細矢仁建築設計事務所設立。25年同大学院博士課程後期単位取得退学。メール=info@jinhosoya.com
毎週金曜日発行「週刊タイムス住宅新聞」亜熱帯の建築「詞」(4)
第2127号(2026年10月9日発行)より転載