第11回沖縄建築賞は「住宅部門」のみが対象で15作品が集まった。8月のプレゼン審査、9月の現地審査を経て、各賞が決まる。過去10回の審査副委員長を務めた小倉暢之さんは、「現地審査があるのが沖縄建築賞の素晴らしいところ。五感で吟味し顕彰することに意義がある」と話す。過去8回、審査委員を務めた能勢裕子さんは「現地審査では建物そのものだけでなく、周辺環境との調和も評価のポイントだった」と話す。今回は審査員を退いたが長年、審査員を務めた2人に、同賞を振り返り感じたことを聞いた。(編集部/東江菜穂、伊波克朗)
小倉暢之氏(第1〜10回審査副委員長)/四つのポイントから評価

おぐら・のぶゆき/琉球大学名誉教授。第1回~第10回沖縄建築賞の審査副委員長を務めた
技を競い成熟する文化
過去10回の沖縄建築賞で審査副委員長を務めた小倉氏。唯一の皆出席者だ。「良い文化とは技を競い合うところから生まれると思う。沖縄建築賞には建築家の努力の結晶が集まり、競いながら共有し、社会に発信してきた。その10年の蓄積は大きく、特にここ数年は成熟を感じた」と話す。
同賞の魅力は「現地審査があること」と話す。「ビジュアルだけでなく、五感で居心地や快適性を吟味することで、確信を持って評価することができた」と話す。また、「建物は建築士だけでつくるものではない。現地審査では施主の思いを聞き、施工者の苦労を確かめられた。施主・設計・施工の3者が強い目的意識を持って完成させた素晴らしい建築にいくつも出合えた」と振り返る。

第10回(2024年)の現地審査の様子
最適な組み合わせ解求め
小倉氏が建築を見る際、四つのポイントを大切にしていると言う。
①物理的な立地環境
気候や気象への対応、インフラ整備など。
優れていた作品/第10回正賞・亜熱帯のいえ(仲本昌司氏)

建築士である仲本氏の自邸。伝統的な木造古民家が、防風林や石積みで風を防いでいたのを現代的に変換。開口部を限定した鉄筋コンクリートの外壁で守り、屋根や内部空間は蓄熱しづらく調湿効果のある木造にした。沖縄の気候風土に寄り添い、混構造の可能性を感じさせる作品。
第6回正賞・立体路地を持つ都市住宅(大嶺亮氏)

人の往来が激しい商業エリアに立つ4階建ての2世帯住宅。外に向けた開口部が設けづらいことから、室内に半屋外空間である「立体路地」=写真中央から右側=を設けた。建物の縦横を貫く立体路地が室内に風を通し、自然を感じさせる。世帯間にも付かず離れずの距離をつくる。
②社会的・文化的背景
経済面(コスト)や制度、美的感覚や生活様式など
優れていた作品/第10回奨励賞・継承する家(畠山武史氏)

もともと敷地に生えていた木々を避けるように建物を分棟スタイルで配置している。植物や空の色を生かすため、内外共に彩度を落とした打ち放し仕上げにし各棟の高さも抑えた。建物が自然とともに成長し、長い歴史の中でその土地になじみ、継承されていく建築
③建築材料
建材の入手のしやすさ(流通や費用も含めて)、作業性、新しい使い方など
優れていた作品/第4回正賞・本部町の新民家(漢那潤氏)

木造古民家を新たな技術で作り上げた、その名の通り「新民家」。漢那さんが開発したオリジナルのジョイント金具を用いた構造計画により、四方に開口部を設けることが可能。耐力壁も不要で間取りが自由に変えられる。さまざまなサイズや要望に対応できることから、沖縄の木造平屋のプロトタイプ(原型)になり得る建築
④建築技術
伝統技術や新しい技術、IT化など
優れていた作品/第7回奨励賞・4世代が住む家(濱元宏氏ら)

道路に大きな窓を設け、木製スクリーンで目隠し。さらに植栽をはわせて「重ね着」して開口部をコントロール。その大開口部に面する場所にLDKを配置し、奥にいくほどプライベート空間になっていく構成。昔ながらの民家的な間取りを現代的に表現している。3階の窓は道路側にあえて傾かせ目の前にある電線の印象を和らげている
第2回奨励賞・小規模世帯の住まい(久高多美子氏)

躯体壁は鉄筋コンクリート(RC造)、屋根は伝統的な木造の赤瓦ぶきの混構造。切り妻小屋組みの屋根は、妻側の高窓が通風、排熱、採光の役割を担う。屋根の木材は工場でプレカットしたものを現場で組むスタイルで工期を短くできたほか、荷重も減らし基礎への負担を軽減。ローコストにもつながっている
「この四つの要素の最適な組み合わせ解を導き出そうと、それぞれの建築家が試行錯誤してきた。その足跡が沖縄建築の刺激になり、業界全体のレベルアップにつながっている」と話す。それをけん引してきたのが、沖縄建築賞に長年応募を続けている「多くの優れた常連組」の存在だと言う。「常に新しい作品を出してくれる常連組の果敢な挑戦は、業界に大きな影響を与えた」
①や②で印象的だったのは「常連の畠山武史さん(クレールアーキラボ)の作品。彼は自然環境と建築を巧みに調和させる腕がある。第1回の住宅部門で正賞を受賞した後も、ずっと作品を出し続けている意欲も評価したい」と話す。
④では「同じく常連の濱元宏さん(GAB)の建築が心に残っている。彼らは施工も手掛けるだけあって職人的な技術が随所に見られる。〝手〟で作られた温度を感じる」と話した。
家造りのヒントに
今大会は住宅部門に絞っての開催だ。「一戸建て住宅が、高根の花になってきている。そんな中だからこそ、これからの家造りのヒントになるような作品が集まることを期待している」と小倉氏。
「同賞は建築文化の発展と、社会の幸せを両立している。最近、よく耳にする『ウェルビーイング(個人や社会の良い状態)』の実現に一役買っているように思う」と話した。
能勢裕子氏(第3〜10回審査委員)/彫刻家の視点で作品に注目

のせ・ゆうこ/彫刻家。第42回行動展(行動美術協会主催)で行動美術賞を受賞。そのほか沖縄タイムス芸術選賞奨励賞も受賞している。
建築に興味あり
第3回から10回までの沖縄建築賞で審査委員を務めた能勢裕子さんは彫刻家。そんな能勢さんが審査を担当するようになったきっかけは、実行委員の日本建築家協会(JIA)沖縄支部から声をかけられたことだったそうだ。第2回までは女性の審査員がいなかったので、新しく加えた方がいいのではと意見が挙がり、能勢さんが選出された。
「私は作品に建材を使うので、建築は身近で多少の知識もあります。何より設計図面を読んだり、アトリエの内装を自分で施工したりするほど建築に興味があったので、引き受けることにしました」と振り返る。
現地の環境になじむ建物
審査では、建物と周囲の環境の関係性に注目していた。住宅部門は住みよさについて考慮しつつも、「建物が街中にあるのか、自然に囲まれた場所にあるのか。場所の特性を生かし、外観が周囲と溶け込んでいるかを見ていました」。
だからこそ、現地審査を毎回楽しみにしていた。「資料だけでは建物の良さが分からないと思っているので、ワクワクしながら現地に向かっていました。施主の方々は、室内に上がり込む私たちを心良く受け入れてくださり、ありがたかったですね。逆に、現地へ行かず評価した作品に対して、申し訳ないと感じたこともあります」。
気候風土だけではなく
沖縄建築賞の応募作は、沖縄の気候風土に向き合った建物が多く、そうした作品が評価されてきた。
一方で、能勢さんは「気候風土に配慮するのは設計の前提として大切です。ですが、それだけを前面に押し出すのではなく、私は時代性とデザイン性のある外観の建築を見てみたい」と彫刻家としての視点から、入賞作品に期待する。
「賞を重ねるにつれて、木材を用いた住宅や、コンクリートで曲線を表現したり、コンクリートブロックを組み合わせて異なる見せ方を提案したりするなど、技法の変化や進化がありました。今回はどのような作品が選ばれるのかが楽しみ」と話した。
【能勢さんの印象に残った作品】
第9回正賞・ヨナシロのいえ(小林進一氏ら)

共働きの夫婦が暮らす鉄筋コンクリート造の平屋。水回りや寝室、収納などの閉鎖的な空間は東と西に配置。その間にできたスペースにLDKがある。LDKは南北に視線が抜けるオープンな空間で、深いアマハジ空間となっているテラスの向こうには、緑地帯が視界いっぱいに広がる。デザインもレイアウトも単純明快ながら、施主の使い方次第でいろいろな可能性にも応えられる。「施主のライフスタイルをよく理解した上で、シンプルな間取りで寄り添っているのが好印象でした」
第3回奨励賞・polyhedron -多面体-(大嶺亮氏)

ユニークな外観が印象に残る地下1階、地上2階建てのアトリエ兼住宅。音楽家の施主が仕事をする2階のアトリエは、天井高が最大約3.6メートルと開放的。傾斜して平行面のない壁が音の反響を防ぎ、天井近くまである棚の本が音を吸収するため残響もない。「施主が弾いてくれたピアノの音も良かったです。反響を防ぐための工夫が外観に現れていて、面白いと思いました」
第10回正賞・亜熱帯のいえ(仲本昌司氏)

小倉さんも「物理的立地環境の対応に優れていた作品」として評価した。「自然が豊かな景観の中に、大きい屋根の外観があってとても見応えがありました。特に建物を下から見上げた姿が良かったです。建築賞では沖縄の気候風土に寄り添った作品として評価されましたが、私は外観の方が印象に残りました」
【第11回沖縄建築賞】第1次審査はスキップ、応募の全15作品が通過
第11回沖縄建築賞は、住宅部門に絞っての開催。2026年7月15日に応募を締め切り、15作品が集まった。
1次審査は古谷誠章審査委員長の意向によりスキップとなり、すべての作品が2次審査に進んだ。
古谷審査委員長は、「1次審査は本来、応募数が多過ぎて全員のプレゼンテーションを行うのが困難な場合の『足切り』として設けられたという認識。今回の応募点数は15点で、2次審査の時間内で全ての作品がプレゼンテーション可能であるため、1次審査の必要がないと判断した。沖縄建築賞を、応募したこと自体に価値を感じられるような形式にしたい。応募者がプレゼン審査に参加し、作品へのコメントや質疑を聴くこと自体が、次につながるフィードバックを得る貴重な機会だと考えている」と説明した。
2次審査は8月7日、浦添市・てだこホールで一般公開

第10回の2次審査の様子。応募者はプレゼンテーションを行い、審査委員の質疑に答えた
第11回の2次審査は8月7日(金)、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール多目的室1で開催される。審査の様子は公開される。一般の方も来場し、応募者によるプレゼンテーションや審査委員らの質疑応答などを見ることができる。プレゼンテーションは午前と午後の部に分かれ、午前11時〜午後0時10分と、午後1時〜午後2時50分ごろまで行われる予定。その後、審査会が開かれる。
毎週金曜日発行「週刊タイムス住宅新聞」
第2117号(2026年7月31日発行)より転載