一級建築士の村山創さんが建築の専門知識と人生哲学を交えて、より「人生を楽しむ」ことにスポットを当てて「住宅論」をつづっていく。今回は「引く家づくり」。必要なモノしか買わない。そうするとお金にもスペースにも余裕が生まれると説明します。(文/村山創 一級建築士)
あれば便利≒なくても平気
「ミニマリスト」という言葉、聞いたことありますか? 本当に必要なモノだけを厳選して持ち、モノに振り回されない人生スタイルです。「なんだか修行みたいで窮屈そう」と思った方、私も最初はそう思っていました。でも実践してみると、驚くほど気持ちいいんです(私はミニマリストには程遠いですが…)。
心理学に「選択のパラドックス」という考え方があります。選択肢が多ければ多いほど、人の満足度はかえって下がる、というものです。レストランのメニューが多過ぎて選べない、という経験ありませんか? 住まいも同じで、家電やモノを増やすほど、なぜか「豊かさ」ではなく「重さ」が積み上がっていく。不思議ですよね。
広告を見ると、どの商品も魅力的に映ります。家電、車、家。でも私はそのたびに心の中で考えるようにしています。「来年には、もっと新しいものが出てくる」と。
「あれば便利」は確かにそう。でもそれって「なくても平気」なんです。
余力が生む余裕
家づくりには二つの方向があると思っています。「足す家づくり」と「引く家づくり」です。広さを足して、収納を足して、設備を足す。多くの方は自然と前者を選びます。でも「多くを持つこと」ではなく「シンプルにすること」を目指すと、不思議なことが起こります。余白が生まれ、モノが絞られ、統一感とともに家全体に調和が生まれてくる。モノや広さや設備を「引く」ことで、暮らしの質がぐっと上がっていくのです。
そして、見落とされがちなのが「時間のコスト」です。広い家は掃除に時間がかかる。設備が多ければメンテナンスも増える。モノが多いと、探す手間が生まれます。この小さな積み重ねがじわじわとストレスを生む。掃除や管理の手間ごと「捨てる」という発想、なかなかおもしろいと思いませんか?
余力を残すと、お金にも余裕が生まれます。「別に買えるけど、買わない」。これは我慢ではなく、自分の意志で選んでいる感覚です。この感覚が、次第に幸福感につながっていきます。
その金銭的な余裕が、心の余裕に直結していく。「いつでも買えるけど、今は買わない」。そう思えるようになると、堂々とした自信が湧きあがってきます。例えるなら、いつでも心の中にブラックカードを持っている感覚です。使わなくても、持っているだけで余裕が生まれます。
「安いから」でなく、「本当に必要だから買う」を実践してみてください。いつもより気持ちいい瞬間があるはずです。それを体感したとき、住まいも人生も、きっと少し軽くなるでしょう。


執筆者プロフィル

むらやま・はじめ/一級建築士、創環境Design代表。フラット35適合証明技術者。設計の仕事をしながら、住宅関係の講演会や一般消費者に向けて住宅づくりの情報をSNSで発信する
【創環境Designのホームページ】https://hajimemurayama.my.canva.site/
毎週金曜日発行「週刊タイムス住宅新聞」人生を楽しむ住まい(3)
第2110号(2026年6月12日発行)より転載