60代で自宅に手すり つける前に「できること」3つ|家と心理

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空間デザイン心理士Ⓡで一級建築士。2児の母でもある、まえうみ・さきこさんが、空間を心理的に解析する。今回は、手すりを付ける前にできる転倒防止策を解説。「備えの主役は手すりなどの器具でなく、間取りや暮らし方です」と説明します。(文・イラスト/まえうみさきこ・ielie)

「転びそうにならない家」にする、間取りや暮らし方

60代になると「そろそろ手すりでもつけようかね」。夫婦の会話にこんな言葉が出てくるようになります。親の介護を経験した方ほど、そうした備えの気持ちは切実かもしれません。

手すりは確かに心強い味方です。でも私は建築士として、お伝えしたいことがあります。手すりは「転びそうになったとき」の備えです。「転びそうにならない」ように、できることがたくさんあるって知ってますか?

危険なのは、小さな段差・モノ・暗さ

意外に思われるかもしれませんが、高齢者の転倒事故は、屋外よりも住み慣れた家の中で多く起きています。「長年暮らしていて、隅々まで知り尽くしているはずのわが家」で起きているのです。

しかも階段のようないかにも危ない場所ではありません。階段は本人も体も警戒しているので案外、事故は起きにくいようです。くせ者なのは、なんでもない場所に潜む小さな段差・モノ・暗さ、なのです。

小さな段差

危ないのは、20センチの段差より、2センチの小さな段差。大きな段差は目に付きますが、和室の敷居、部屋の境目の見切り材、玄関マットやキッチンマットの縁などのわずかな段差は、視界に入っても意識に上りません。人は年齢とともに、歩くときにつま先が上がりにくくなっていきます。そのわずか数ミリの変化を、2センチの段差がすくうのです。

一度、家の中をゆっくり一周して、2センチ前後の段差がある場所を確認してみてください。それが、手すりの設置以前に確認して改善しておくべき場所です。

対策としてはマットを滑り止め付きに替える、思い切って撤去する。ふすまやドアの敷居には市販のミニスロープを付ける。数百円から数千円でできる対策なので家計にも優しいです。

モノ

次に「モノ」です。廊下に積まれた新聞の束、床をはう扇風機の延長コード、脱ぎっぱなしのスリッパ、ソファ脇に置いた手提げ袋など。床の上のモノは、すべてつまずきの候補です。しかも置いた本人は、それがいつもの風景になっているため、「危険」として認識されにくいのが厄介なところ。

「転ばない家」とは、突き詰めれば「床が見えている家」のこと。つまり片付けは、最強の転倒予防策です。

特に優先したいのは寝室、廊下、トイレ周りという「夜に通る道」です。家全体を片づけようとすると気が重くなりますが、「夜の通り道だけ片付ける」なら、今日からできそうですよね。

ついでに履いているスリッパも見直してみましょう。かかとのないスリッパは着脱しやすいですが、脱げたり滑ったりしやすいです。かかとまで覆うルームシューズに替えるだけでも、足元はぐっと安定しますよ。

暗さ

視界が悪い、暗い場所も転倒が起きやすいです。中でも、夜中のトイレへの移動は、寝ぼけた頭、暗い廊下、急ぐ気持ちと、転倒しやすい条件がそろっています。

対策の一つは、寝室からトイレまでの動線に足元灯を置くこと。コンセントに差すタイプの人感センサー付き照明なら、暗闇でスイッチを探す必要もなく、数千円で設置できます。

さらにもう一歩進んだ対策は、寝室とトイレの距離そのものを縮めること。夜の移動距離が短いほど、転倒リスクは確実に減ります。「寝室を2階からトイレに近い1階の和室に移す」「トイレから遠い寝室と近い納戸を入れ替える」などは、部屋の使い方を替えるだけで実現できます。

身長や利き手に合わせ、自然に届く手すりを

ここまで整えて、ようやく手すりの出番です。

手すりは、転んでから慌てて付けるのではなく、元気なうちに、使う人の身長と利き手に合わせることをおススメします。慌てて標準位置に付けた手すりより、あなたの手が自然に届く位置の手すりの方が、歩行をきちんとサポートしてくれます。

介護保険の住宅改修の対象になる場合もありますから、ケアマネジャーや自治体の窓口に相談をしましょう。 

備えの主役は、手すりなどの器具ではなく、間取りや暮らし方です。今夜、電気を消して、寝室からトイレまで「転倒原因の存在」意識してゆっくり歩いてみてください。わが家の本当の姿が、そこにあります。転ばない家づくりは、その点検から始まるのです。

手すりを付ける前にやってみよう

敵は20センチの段差より、2センチの小さな段差

危ないのは20センチの段差より2センチの段差です。大きな段差は目に付き、体が覚えていて自然に足が上がります。しかし、玄関マットやキッチンマットの縁などのわずかな段差は、視界に入っていても意識しづらいものです。年を取り上がらなくなっていく足を引っかけてしまうことも。

マットは撤去したり、滑り止め付きに替える。和室の段差には市販のミニスロープを付ける。数百円から数千円でできる対策です。

片付けは、最強の転倒予防策

床の上のモノは、すべてつまずきの候補です。しかも、置いた本人にはいつもの風景になっているため、「危険」として認識されにくい。対策は片付けです。片付けこそ最強の転倒予防策。家全体を片付けるのは大変なので、まずは寝室・廊下・トイレ周りの「夜間に通る道」を整えましょう。

夜にトイレまで意識して歩いてみる

転倒が起きやすいのが、夜中のトイレへの移動です。寝ぼけた意識、暗い廊下、急ぐ気持ち。転倒しやすい条件がそろっています。危険を取り除くためには、夜間に「転倒原因の存在」を意識してゆっくり歩いてみてください。足の裏に感じる小さな段差、すねに触れるモノの気配、スイッチまでの暗さ。昼間には見えなかったわが家の本当の姿が、そこにあるはずです。 

執筆者プロフィル

まえうみ・さきこ/1976年、嘉手納町出身。建築会社に20年勤務したのち、2021年6月に「ielie(イエリエ)」を設立。建築の知識やママの経験を生かして、住まいの悩みに応じたコンサルティングやインテリアコーディネートを行う。一級建築士、空間デザイン心理士®、夫、2人の子ども、猫2匹と暮らす。

ielie(イエリエ)ホームページ

https://ielie.okinawa

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毎週金曜日発行「週刊タイムス住宅新聞」家と心理(53)
第2118号(2026年8月7日発行)より転載