空間デザイン心理士Ⓡで一級建築士。2児の母でもある、まえうみ・さきこさんが、空間を心理的に解析する。今回は、年を重ねて「住まいが生活に合わなくなってきた」と思い始めている方に、建て替え・リフォーム・住み替えの判断ポイントを紹介します。(文・イラスト/まえうみさきこ ielie)
「どうするか」より「何が問題か」整理
「子どもが独立し、使っていない部屋が増えた」「階段の上り下りがしんどくなってきた」。そうした経験を重ねて「そろそろ家のことを考えなきゃ」という方は多いでしょう。
しかし、リフォーム会社に相談すればリフォームを勧められる。ハウスメーカーに行けば建て替えの話になる。不動産会社に行けば住み替えの提案が始まる。会社ごとに話が「契約」に向かって動いていくため、「本当にこれでいいのか」を決断できず保留にしてしまい、月日が過ぎていくのです。
でも実は「リフォーム、建て替え、住み替え」の三択で悩んでいること自体、順番が違うのかもしれません。「家をどうするか」を考える前に、まず「今の家の何が問題なのか」を整理することが先決だと考えます。
例えば「階段がしんどくなってきた」の解決策は本当に「建て替え」しかないのでしょうか。寝室を1階に移せば解決できるかもしれません。それならばリフォームで十分です。しかし間取りの都合上、1階に寝室を移すのが難しいなら、建て替えや住み替えを視野に入れる必要が出てきます。
つまり、建て替えかリフォームかという答えは、今の家の間取りを丁寧に見ることで、見えてくるものです。悩みの入り口は「階段がしんどい」という日常の不満でも、そこから間取りを読み解いていくと、自分たちに本当に必要な選択肢が浮かび上がってきます。
五つのポイントから住まいを考えてみる
「間取り」は、単なる部屋の配置ではありません。そこに住む人の「毎日の動き」と「暮らしの優先順位」が刻み込まれています。
例えば、子育て中に建てた家は、子どもたちのために最適化されています。学区・部屋数・収納の場所。それは、子育て時代の正解でした。
でも今の暮らしはどうでしょうか。夫婦2人で広過ぎる家を持て余していないか。誰も使わない部屋の掃除に追われていないか。定年して夫婦で家にいる時間が増えたのに、互いに1人になれる空間がないと感じていないか。
「今の家の何が問題か」を整理するだけで、自分たちに合った住まいは驚くほど明確になります。まず、次の五つのポイントで今の住まいを見てみてください。
- 「不便だな」と感じる場所は、毎日同じ場所ですか?
- 今の不満は「リフォーム」で解決できる話ですか?
- 10年後の自分たちの暮らしを想像できていますか
- 「何となく嫌だ」の正体を言葉にしてみましょう
- 「先送りにしているコスト」を考えてみましょう
この5ポイントを丁寧に考えていくと、建て替え・リフォーム・住み替えへの道が自然と見えてくるはずです。「あちこち相談に行ったけど決断できない」のはあなたの決断力がないからではありません。住まいの「問題の正体」を明確にすることが先決なのです。
「そろそろ考えなきゃ」と思い始めたときが、1番良いタイミング。紹介したチェックポイントに沿って今の住まいを見直してみてください。
今の家の問題点 洗い出すポイント
ポイント① 「不便だな」と感じる場所は、毎日同じ場所ですか?
階段がしんどい、洗面所が遠い、収納が使いにくい。毎日同じ場所で同じストレスを感じているなら、それは間取りの問題です。「慣れたから」と流さずに、書き出してみると見えてくるものがあります。
ポイント② 今の不満は「リフォーム」で解決できますか?
例えば階段がしんどいなら、寝室や洗濯干し場などの生活に使う空間を1階に移せるか。収納が足りないなら壁を活用できるかなど、今の間取りの中で解決できるか。それとも間取りの構造から変える必要があるのか。この区別をすると、選択肢がかなり絞られてきます。
ポイント③ 10年後の暮らしを想像できていますか
今は不便を感じていなくても、10年後はどうでしょうか。体の変化、夫婦どちらかが1人になる可能性、親の介護など、将来起こりうることを想像しておきましょう。「今の暮らし」だけを基準に判断すると、数年後にまた同じ悩みが戻ってきます。



洗う・干す・しまう。毎日繰り返す家事の動線は体への負担になっていませんか。10年後も続けられるでしょうか
ポイント④ 「なんとなく嫌だ」の正体を言葉にしてみましょう
「なんとなく今の家が好きじゃない」「家にいるのに落ち着かない」。その感覚を放置せず、言葉にしてみましょう。光が入らない、風が通らない、自分の居場所がない。具体的にすることで、解決策が見えてくることも多いです。
ポイント⑤ 「先送りにすること」のコストを意識しましょう
判断を先送りにすることにも、実はコストがかかっていることを意識しましょう。老朽化が進む、体力が落ちる、と選択肢が狭まってきます。「まだ大丈夫」と思っているうちに、動きやすいタイミングを逃していることも少なくありません。
ほかにもある参考チェックポイント
- 夫婦それぞれの「居場所」が今の家にあるか
- 今の家事動線は、体力が落ちても続けられるか
- 使っていない部屋が増えていないか
- 親の介護が必要になったとき、今の家で対応できるか
- 今の家に「好きな場所」がひとつでもあるか
- 毎月の維持費・光熱費が家計の負担になっていないか
- 台風・地震などの災害時に、今の家で安心できるか
- 今の家で、あと何年暮らすつもりか考えたことがあるか
- 家を売る・貸すという選択肢を考えたことがあるか
- 「この家で最期まで暮らせるか」を夫婦で話したことがあるか

子どもが独立した後も、子育て時代の間取りのまま暮らしていませんか。今の家は、今の自分たちの暮らしに合っていますか
執筆者プロフィル

まえうみ・さきこ/1976年、嘉手納町出身。建築会社に20年勤務したのち、2021年6月に「ielie(イエリエ)」を設立。建築の知識やママの経験を生かして、住まいの悩みに応じたコンサルティングやインテリアコーディネートを行う。一級建築士、空間デザイン心理士®、夫、2人の子ども、猫2匹と暮らす。
ielie(イエリエ)ホームページ
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毎週金曜日発行「週刊タイムス住宅新聞」家と心理(52)
第2113号(2026年7月3日発行)より転載
