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2016年4月15日更新

道路だけでなく社会のフラット化を|みんなで考えよう!豊かなまち①

平成28年4月1日から「障害者差別解消法」が施行された。誰もが認め合い、共に生きる社会をつくることを目指す法律だ。まちのバリアーを外すことが、共生社会実現と地域課題解決につながる。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員を務める筆者が、学生スタッフと1年間、まちのバリアーを考える。併せて今回から6月までは、車イス利用者として要援護者支援を行う学生・田畑秋香さんに、どのようなバリアーが問題なのか聞く。

物理的バリアー① 道路・歩道


平面で歩車分離され、人を優先した街路が目立つ長崎のまち

長崎市に行った時、沖縄の手本になると感じた。港を中心に広がる市街地や住宅地は狭くて起伏が多く、坂が多い。歩道がかさ上げされず、白線だけで人と車が見事に分離された街路をよく見かけた。これだと歩道を造る税金もかからない。坂が多くても、自動車が歩行の邪魔をしないのでとても歩きやすい。
坂の上に住む高齢者が元気だという話も聞いた。歩きやすいので外出意欲が高く、毎日往来する坂道で鍛えられて健康なのだという。100円程度で乗れる路面電車があり、自動車は少なく、人や路面電車に遠慮している感じだった。歩く人にとても優しい。
沖縄は歩道が高いため、ノンステップバスが停車できず、運行できない路線があるとバス会社から聞いた。そこに住む障がい者や高齢者は、憲法の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」が保障されていないことになる。
行政は、道路部門だけで道を作るとこうなる。役所内の関係部門や当事者市民と共に、丁寧に取り組むべき。車を前提としたまちづくりは、免許を取って車を買い運転できる健常者のためのまちづくりであり、格差を広げる。道だけでなく、社会全体をフラットにすることを考えるべきだ。
那覇新都心には、舗装されないまま放置されている歩道がある。まちあるきで、学生から「新しく作ったまちなのに、なぜ?」と疑問が噴出した。市民が声を上げることが、社会のフラット化の一歩になる。 

車前提社会が生む、歩道の段差​
―通学などの移動では、何に問題を感じるか?
 田畑  ①屋外での道②公共交通③施設の扉と階段|だと思う。道がなければ移動できないので、道路や歩道のバリアーが最も移動を阻む。

―今回は「道」について考える。どのような課題がある?
 田畑  沖縄は歩道が高い所が多く、車の出入り用の傾斜が強くて車イスが車道に流れて怖い。歩道にはみ出した駐車、看板など障害物、段差や割れ目も多い。健常者中心の社会になっていることに問題がある。
また、沖縄は雨が多いうえ日差しが強いのに、屋根や街路樹が少ない。傘をさせないのでずぶぬれになったり、猛烈に日に焼けたり。観光客にとってもつらいのではないか。

―雨の時はどうしているの?
 田畑  カッパを来て車イスをこいでます(笑)

―沖縄の気候的、自然環境的なリスクも大きいと。
 田畑 雑草が多いことも車イスの進行を阻む。ぬれた雑草や枯れ葉が多いと、車輪をまわす手も滑ってしまう。坂道が多いこと、車社会であることも外出をためらわせる。それらを解決するのが公共交通のはずだが、機能しているとは言えない。

―段差については?
 田畑  4センチを自力で上がるのは無理。横断歩道から歩道に上がる時の段差がけっこう高く、信号が変わると本当に怖い。また、進行方向に沿って段差があると、低くてもタイヤがかかって転倒することがある。夜も怖い。暗い道が多く、段差に気づかないと当たった時に投げ出されてしまう。

―どういうまちづくりをすべきか?
 田畑  昨年、防災を学ぶため神戸に行った時、坂は多いけどどこまでも車イスで動ける感じがした。道がフラットという意味だけではない。見知らぬ人もすぐ手を差し伸べてくれる。地下鉄で車イスがドアとホームの間に挟まった時、車内でスマホを触っていた人とかがワッと集まり、助けてくれた。道でも飲食店に入る時も、すぐに声をかけてくれる。
「何かあれば助ける」という態勢を、誰もが常に取っていると感じた。震災の助け合いで育まれた文化だと聞いたが、私も住みたいと思った。このまちなら、多少の段差があっても乗り越えられる。沖縄の人は、慣れていないためとっさにどうしていいか分からず、そのまま行ってしまう感じ。言葉は大切だ。


横断歩道から歩道に上がる小さな段差で進めず、信号が変わって焦ることがよくある


介添え者がいても、進行方向に沿ったこのわずかな段差で転倒した


文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。なは市民活動支援センターで非常勤専門相談員。沖縄国際大学・沖縄大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組での講師を務める。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1580号・2016年4月15日紙面から掲載

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