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2020年11月13日更新

母屋と離れの間に土間|GAB

[お住まい拝見]母親と介護同居するために新築した平屋のM邸。水回りを備えるバリアフリーの母屋と、約6坪の離れの間には土間廊下が走る。付かず離れずの同居生活を考慮した造りだ。


Mさん宅は玄関を入ってすぐ土間廊下が走る。写真左側が母屋、右奥には離れがある。建築士はこの土間を「路地」と呼ぶ。Mさんが希望した「京都風」をデザインや間取りに落としこみ、このカタチになった
 

介護同居 付かず離れず

Mさん宅
 RC造+木造/自由設計/家族2人 

念願の「京都風」室内外に

家の中に“路地”が走る。
ユニークな造りは、Mさんの要望である「介護同居」と「京都風」を反映している。
介護施設にいる母との同居を決め、築50年余の実家を建て替えた。「家造りをする少し前に、京都旅行をしたんです。ずらりと並ぶ京町屋の縦ライン(木格子)が格好良くて。それを形にしてもらいました」と話す。


外観。木格子と鶯色の壁が趣深い。土壁風の質感も「京都風」の演出にひと役買う。こちらから見ると、混構造(下はRC造で上が木造)になっているのも分かる


母屋はバリアフリーのワンルーム。LDK+水回りがあり、写真奥が母のベッドスペースになる予定。襖(ふすま)で閉じることもできる。写真右奥の個室が母用のトイレ


木格子と鶯(うぐいす)色の壁からなる外観は小料理屋のよう。ガラガラガラと玄関を開けた先には土間造りの路地が延びる。手前左側に約16坪の母屋、右奥に約6坪の離れがある。「同居とはいえ、離れられる空間もあった方がいい。理にかなった造りです」

新型コロナウイルスの影響で同居はかなっていないが、「母にも僕にも優しい造りにしてもらいました」。水回りのある母屋が「母の生活エリア。ベッドスペースから1メートルも離れていない所にトイレを設けています」。

洗面・脱衣所にもトイレがある。隣接するシャワー室まで広々としており、車椅子でもストレッチャーでも出入りしやすい。


トイレやシャワールームは車椅子やストレッチャーでも出入りしやすい造り

路地と母屋の間の段差は約20センチ。「車椅子でも1人の介助者の力で昇降できる。スロープは床面積を取るし、傾斜がきついと逆に危ない。お互いにストレスが少ない高さが20センチなんです」


公園の緑借景に

約6坪の離れは現在、寝室として利用している。Mさんはここで趣味のギターを楽しんだり、映画を見たりして過ごすそう。奥の障子は上下にも開閉できる「雪見障子」。生け垣や道向かいの公園の緑が目を楽しませてくれる



離れから母屋を見る。土間を挟み、正面ではなく斜めにつながっているのがミソ。「ちょうど良い距離感。母が帰ってきてからも、少し離れられる場所があるというのは介護生活にとって大事なことだと思う」とMさん


離れは現在、Mさんの趣味室兼寝室として使っている。上下する雪見障子の向こうには生け垣と、道向かいにある公園の緑が広がる。「いつでも手入れが行き届いている、ぜいたくな借景です」
「ここにもトイレを造る案があったけれど、今は不要。いつか設置できるよう配管だけ準備してもらっています」
設計は古くからの友人である建築士に依頼。「機能も見た目もばっちりの家を造ってくれた」と話す。そこにMさんが温かみをプラス。テレビ台は母の衣装箱を利用。ソファは実家で40年以上愛用していたものを張り替えて使う。「造り付けの家具以外は実家にあったもの。新しい家だけど、母が帰ってきたときに安心して過ごしてほしい」
間取り、設備、インテリアにまで親子の絆が見えた。



LDKは、実家から持ってきた家具が満載。テレビ台は衣装箱、ソファも40年来の愛着があるもの。キッチンは、軽度の認知症の母が入れないように腰高の仕切りを設置している(冷蔵庫横)


ここがポイント
木造+RC造で 趣と機能性両立

Mさんの要望は「京都風」。本来は木造だが、沖縄の環境や湿気の多い敷地を考慮して「上は木造、下が鉄筋コンクリート(RC)造の混構造で提案しました」と、GABの濱元宏さんは話す。

シロアリや台風に強いRCの“体”に、軽い木造の“頭部”を組み合わせることで重量が軽減されて「地盤補強が不要となった」。

RC造の体といえど、ざらりとした土壁風の塗料を用いて仕上げた。落ち着いた鶯色をチョイスし、趣深い外観となった。「価格的には本物の土壁の半額くらいで済んでいる。地盤工事を削減できたことも含めると結構、コストダウンになっていると思う」。内部は天井から床まで杉材を多用し、温かみのある空間となっている。

また、間取りにも「京都風」を落とし込んだ。室内と外にある二つの“路地”だ。家の中央を貫く内路地に加え、玄関の反対側には外路地があり、母屋の前を通らずとも、離れへ出入りできる。「離れがある造りにしたので、将来的には民泊などにも使えるよう配慮した。トイレや浴室などの水回りが設置できるよう、配管も準備してあります」


玄関と反対側からも出入りできる。ここから入れば、母屋の前を通らず、手前の離れに出入りができる



右側が“外路地”。左側のハイビスカスの生け垣の先が、離れ

また、親の代から住んでいる場所柄をふまえて「地域に開けた造りにしました。緑化に貢献すべく、塀の代わりにハイビスカスの生け垣を設けています」。道路側の屋根が低いのは、往来する人に圧迫感を与えないためだ。敷地の奥に向かって高くなっていく「片流れ屋根」にし、「室内の熱気を効率良く外へ逃がすことができる」。見た目と機能を両立する工夫が随所にちりばめられたM邸だった。

[DATA]
家族構成:2人
敷地面積:150.8平方メートル(約46坪)
1階床面積:87.36平方メートル(約26.5坪)
母屋53.8平方メートル(約16坪)、離れ18.6平方メートル(約6坪)
建ぺい率:57.93%(許容60%)
容積量:57.93平方メートル(許容100%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:木造+鉄筋コンクリート造
設計:GAB 濱元宏
構造:KKSエンジニア 坂本憲太郎
施工:GAB 豊崎孟史
電気:五光電工 大城祐介
水道:ライフ工業 我喜屋奨
◆問い合わせ GAB
電話=098・987・7331
http://gab.okinawa/


撮影/比嘉秀明 取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1819号・2020年11月13日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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