企業・ひとの取り組み
2017年9月22日更新
カギは情報収集と資金繰り!|中古という選択
住宅取得の手段として中古物件を活用するなら、カギとなるのは物件を手に入れるための「情報収集」と、改装まで視野に入れた「資金の確保」だ。県内の中古物件市場について沖縄県宅地建物取引業協会にインタビュー。また、中古取得に活用できる金融商品開発に向けた取り組みについて、コザ信用金庫に聞いた。
企業・ひとの取り組み
県内の中古市場
戸建ては物件減少 マメに業者に確認
同協会の知念聡会長、渡久地政彦副会長、宮城康副会長は、「県内は近年の好景気で地価が高騰。新築の建築単価も値上がりしていることを受け、中古物件を探す人が増えている」と話す。実際、知念会長が代表を務める不動産会社では「中古物件の購入希望者は5年前と比べ3倍ほどに増えたにもかかわらず、年間取引自体は減っている」という。
そもそも中古物件は、「住み替えなどで市場に出るものもあるが、ごく一部。多くは経済的な理由で売りに出されているもの」と知念会長。その内訳は、不動産会社が窓口となる一般流通物件(債務者が自身の意思で売却する任意売却物件を含む)をメーンに、裁判所が窓口となる競売物件があるが、「戸建てはもともと少ない上に、近年は情報も減っている印象」と渡久地副会長。宮城副会長は「住宅ローンの支払いに猶予を持たせる金融機関が増加したことで、競売や任売に至らないのも中古物件が減った要因の一つ」と指摘する=グラフ参照。
「中古物件は売りに出ても不動産広告を出す前に買い手が付く状況。情報は宅建業者にマメに連絡を取り入手を」と3者は口をそろえる。
プロの情報提供でトラブル回避
中古物件は個人間で直接取引するケースもあるが、知念会長は「例えば建物や土地境界等で問題が発生した際、責任の所在が曖昧だとトラブルの原因になる恐れも。その点、宅建業者には消費者保護の観点から重要事項説明等を行う義務がある。年々複雑化している不動産取引だからこそ、われわれプロに相談してほしい」と注意を促す。
特に中古住宅については、劣化状況やリフォームの有無といった物件に関する情報不足が課題だったことから、2018年4月より中古物件の売買取引時には「既存住宅状況調査」の説明が義務化される。買い主は、購入を希望する中古住宅について既存住宅状況調査技術者(囲み)が調査した構造耐力、雨水浸入、耐震性の結果を知ることができる。「売り主、買い主共に納得のいく取引に役立ててほしい」と渡久地副会長。技術者は宅建業者に紹介してもらえ、建築士会連合会のホームページでも確認できる。
3者は「不動産取引では安心安全が担保されていることが重要。情報収集、引き渡し後のトラブル回避のためにも、信頼のおける宅建業者に相談を」と促した。
左から県宅地建物取引業協会の宮城副会長、知念会長、渡久地副会長
トピックス
オークションで中古物件購入
中古物件の情報入手や購入の新たな手段として、不動産のオークションシステム「イエオク!」が6月にスタート。開発したのは情報通信業のワイズバンク(宜野湾市)。
同社が窓口となって売り手を募り、物件の査定を提携する専門家に依頼。査定額を基にオークション開始金額を決定し、提携する不動産会社を通じて買い手を募る。買い手は同社が提携する不動産会社を通じてオークションに参加できるというものだ=図参照。
買い手のメリットとして奥浜正樹社長は「物件情報は各社一斉に公開されるため透明性が高く、新しい情報が得られる上、一足違いで売れてしまったということがない。査定時の物件情報も公開するので安心」と説明。売り手にとっては「競争原理で売却価格が上がりやすく、仲介手数料も2%と低く済む」。
提携する不動産会社は現在20社。1件目のマンションは購入時より約4%高値で契約が決まり、現在2件目をオークション中。
奥浜さんは「適正価格は買い手が決めるもの。売り主、買い主双方が参加しやすいシステムで、中古物件流通の活性化につなげたい」と話した。
問い合わせは同社、電話098(963)7799まで。
金融機関の動向
中古向け商品に力建物診断基に評価
コザ信用金庫営業推進部の池原秀樹部長
コザ信用金庫は、建築士(既存住宅状況調査技術者=囲み)による劣化具合の調査「建物診断」などの結果を踏まえて、中古住宅の担保評価をする金融商品の開発を進めている。
「一般的な金融機関が行っている中古住宅の担保評価は、修繕やリフォームといったメンテナンスをしているかどうかに関わらず、登記簿上の築年数を基準にしている」と話すのは同金庫営業推進部の池原秀樹部長。
きちんと手入れされた良質な建物であっても、耐用年数や今後の修繕費がいくら掛かるかなど、金融機関には判断できないのが主な理由だ。
そのため、中古住宅を取得するためのローンを長期で組めず、月々の返済額が高額になりがちなところを、金融機関は返済期間の延長や金利引き下げで対応してきた。「金融機関の評価額より、実際に売買されている価格の方が高いなど、市場評価とかけ離れている」現状もあるという。
こうした課題解決に向けて期待されるのが、同金庫が開発中の商品。既存住宅状況調査技術者による建物診断や長期修繕計画の積算、不動産鑑定士による資産価値・耐用年数の算定などをまとめた「住宅ファイル」を基に評価する。「専門家の評価が根拠となり、金融機関としても融資可能額や返済期間に反映される適正評価が可能になる」。
中古普及と流通目指し4者で仕組みづくり
同金庫による開発は、沖縄中古不動産活性化協議会の取り組みの一環。同金庫のほか、県不動産鑑定士協会、OKINAWA型中古住宅流通研究会、県中部宅地建物取引業者会が協力し、良質な中古住宅の普及と適正価格での流通を目指した仕組み(図)づくりをしている。
建物診断の現場を見学した池原部長は「細かいところまでチェックしており、診断結果の信頼性は高い」と強調する。
実際、外壁塗装や設備の劣化具合から、荷重が掛かる部分の床が弱っていないか確認するため、人がよく通る廊下の中央部やベッドの足元まで検査する。
「今年度中には商品を形にしたい。将来的に、この仕組みを利用した中古住宅の適正な評価方法が、他の金融機関にも広がっていけば」と期待を込めた。
既存住宅状況調査技術者とは
「既存住宅状況調査」の法定講習を修了した建築士。同調査は、中古物件の情報不足を解消し流通を促すことを目指し、2018年4月から中古物件の売買取引時に説明が義務付けられるもの。基礎や外壁の劣化、雨漏り、耐震性などを同技術者がチェックした結果を活用する。技術者は日本建築士会連合会ホームページ(https://aba-svc.jp/house/inspector/index.html)から確認できる。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1655号・2017年9月22日紙面から掲載
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